仕事をしていると、「何を聞かれているのか、一瞬では判断がつかない質問」に出くわすことがあります。
たとえば、「ここに来るので、どのくらいかかった?」と聞かれたとき、それは時間の話なのか、交通費の話なのか、あるいは距離の話なのか、一瞬迷うことがあります。
もちろん、文脈によってはすぐに判断できる場合も多いです。会話の流れが移動手段の話なら所要時間、経費の話なら交通費、地理的な話なら距離のことを指しているのだろうと推測できます。
しかし、文脈が明確でない場合や、複数の解釈が成り立つ場合には、どの情報を求められているのか見極める必要があります。こうした場面では「察する力」が求められますが、それと同時に、質問する側の言葉の使い方も重要になるのではないかと感じます。
「あの紙袋は?」問題
具体的な例を挙げてみます。
取引先から「皆さんでどうぞ」と紙袋に入った贈り物をもらいました。中には日本酒が入っており、それを職場の共用スペースに置きました。しばらくすると上司がやってきて、こう尋ねます。
「あの紙袋は?」
このとき、考えられる解釈はいくつかあります。
- 紙袋の中身が何か?(→「日本酒でした」と答える)
- どこの取引先からもらったものなのか?(→ 取引先の名前を答える)
- その紙袋は今どこにあるのか?(→「共用スペースにあります」と答える)
このように、質問の意図を推測する必要がある場面は意外と多いです。もし回答者が「紙袋」という単語に引っ張られ、「中身」の話だと解釈してしまうと、答えとしてはずれる可能性があります。
もちろん、会話の流れや上司の表情から推測できる場合もありますが、それでも曖昧な表現はコミュニケーションのズレを引き起こしやすいです。
「察するべき」文化の難しさ
こうしたやり取りが生まれる背景には、日本語の「省略する文化」があるのではないかと思います。
・「あの紙袋は?」と聞かれたら、「どこの取引先のものか」を尋ねていると察するべき。
・「会議の資料ある?」と聞かれたら、「印刷されているか」を聞かれていると察するべき。
このように、省略された言葉の意図をくみ取ることが求められる場面は多いです。
しかし、「察する」という行為は、質問する側と答える側の認識が一致していなければ成立しません。質問する側が「この言葉で伝わるだろう」と思っていても、相手が異なる解釈をしてしまえば、そこで会話はすれ違ってしまいます。
「会議の資料ある?」問題
こうしたケースは日常的に発生します。
たとえば、上司から「会議の資料ある?」と聞かれたとします。
・「どこにある?」(→ 置き場所のことか?)
・「すでに配布済みか?」(→ 配布状況のことか?)
・「印刷済みか?」(→ 印刷状況のことか?)
もし、「デスクの上にあります」と答えたとしても、相手が求めていたのが「印刷されているかどうか」だった場合、「いや、そうじゃなくて、印刷した?」と聞き返されることになります。
こうした場面では、質問の意図を補完する形で答えると誤解を防ぎやすくなります。
「曖昧な質問」への対応
このような「修飾語が省略された質問」にどう対応するべきか。いくつかの対策が考えられます。
① 一拍おいて考える
すぐに答えず、「この質問にはどのような解釈が成り立つか?」を考える時間を取ります。焦って答えてしまうと、意図とずれた返答をしてしまう可能性が高くなります。
② 補足をつけて答える
「会議の資料ある?」と聞かれた場合、「デスクの上にあります。まだ印刷はしていませんが、印刷しますか?」といった形で、追加情報を含めて答えるとスムーズかもしれません。
③ 必要なら確認する
どうしても判断がつかない場合は、「それは印刷状況のことですか? それとも配布状況のことですか?」と確認することも有効です。曖昧なまま答えるよりも、聞き直したほうが会話の手戻りが少なくなります。
「言葉を省略する文化」との向き合い方
こうした問題は、単なる「察する力の有無」だけでなく、日本語の持つ「言葉を省略する文化」と深く関係しているように思います。
例えば、英語では「Did you print the meeting materials?」のように、主語や動詞が明確に示されるため、解釈の余地は少なくなります。しかし、日本語では「会議の資料ある?」のように、情報の一部を省略して表現されることが多いため、相手の意図を読み取る必要が出てきます。
また、職場では「ある程度察する力が求められる」という暗黙の了解があるため、「この言葉で伝わるだろう」という前提のもとで会話が行われがちです。しかし、それがすれ違いを生む要因にもなっています。
そのため、話し手と聞き手の双方が、「必要な情報を適切に補う」という意識を持つことがまぁ大事あのではないかと思います。
まとめに代えて
修飾語がないと察しがつかない問題は、職場に限らず、日常生活でもよく発生します。
こうした場面では、聞き手は「推測しすぎず、適切に確認する」、話し手は「必要な情報を省略しすぎない」という意識を持つことで、ズレを最小限に抑えられるのではないでしょうか。
とはいえ、日本語の省略文化が根本的に変わることはないでしょうし、「察する」という行為自体がコミュニケーションの一部でもあります。
だからこそ、この問題はどう解決するかというよりも、どのように折り合いをつけていくかという視点で考えることが大切なのかもしれません。
コメント