4月。国税の職場にも新たな風が吹き込む季節です。
ご入庁された皆様、本当におめでとうございます。
私が入庁したのはもう十数年前になりますが、この季節になると、あのなんともいえない初々しい空気を思い出します。黒光りするスーツ、硬さの残る敬礼、妙にハキハキした返事。すべてが懐かしいです。
さて、こんな時代に、わざわざ公務員、それも国税という職場を選んだあなたに伝えたいことがあります。
まず、今は激動の時代です。
世の中の常識や価値観はものすごいスピードで変化しています。
「昔はこうだった」「これが正しい」といった話は、あっという間に化石のようになってしまいます。今や、過去の成功体験が次の瞬間には“通用しない古典”になっている、そんな時代です。
このような中で、職場の先輩や上司の「オレの時代はな…」的な語りは、あくまで参考程度に受け取るのが無難です。全部信じると、逆に道を踏み外すかもしれません。
かつては「公務員=安定」という神話がありました。私もその恩恵を受けた世代です。しかし、もはやその幻想を抱いている人は少ないでしょう。どんな組織に属していても、どんな立場であっても、“絶対に安全”なんていうものは存在しない。これが今の世の中のリアルです。
そして、さらに言えば、AIの進化はこの“安定の幻想”を根底から揺るがしにきています。
民間企業においては、すでに「新人を一から育てるコスト」より、「最初からAIに仕事を投げた方が早い」という判断がなされつつあります。
生成AIは、会議の議事録を瞬時にまとめ、マーケティングの文案を作り、財務諸表を読み解き、場合によっては戦略的な提案までしてくれます。しかも24時間働いて、文句ひとつ言いません。
つまり、「とりあえず若手を雇って、OJTで育てる」という時代が、少しずつ終わりに近づいているということです。
…なのに、国税の職場ではどうでしょうか。
もちろん、国税庁も時代の流れをまったく無視しているわけではありません。調査選定の一部には、AIを活用した仕組みも導入されています。しかし、調査や審理の現場で、担当者が職場のパソコンを使って堂々と生成AIを開いて調べものをしている光景は、今のところ想像しづらいです。
そもそも守秘義務がありますし、端末の制限も厳しいので、そもそもそういう用途では使えません。
つまり、「新人を一から人間が育てる」必要が、まだまだしっかり残っているのです。
これは視点を変えると、AIでは代替しづらい「人間の手仕事」が多く残っているとも言えます。面倒でもあり、逆に言えば、まだ人間にしかできない業務がたくさんあるということです。
また、国税という職場は、“人間くさい文化”が色濃く残る世界です。
たとえば、あまりに有名なフレーズとして「一期違えば虫けら同然」という言葉があります。
参考記事:←ここにリンクを貼ってくださいね。
この言葉に象徴されるように、たとえ入庁年次がひとつ違うだけでも、力関係や空気感に差があるのが現実です。
そう聞くと「えっ…昭和かよ」と思われるかもしれませんが、それだけ“人”が仕事を支えている証拠でもあるのです。
AIには人間関係の機微はわかりませんし、まだ「一緒に飲みに行って空気を読む」ことも、「上司のクセを察する」こともできません。
国税という職場は、いい意味でも悪い意味でも、そうした“空気”がものを言う世界です。
私はこの国税の職場で十数年働き、今年度中には退職して税理士登録を予定しています。
正直に言って、職場に対する不満がなかったわけではありません。
でも、それ以上に「人が人を育てる環境」に身を置けたことは、今でもありがたかったと思っています。
たとえそれが、非効率に見えることがあっても、AIの全盛時代においては、案外それが強みになるのではないかとすら感じています。
「AIに仕事を奪われる」と言われる時代において、
国税という職場は、「AIではできない仕事」をする人間が、まだ必要とされている場所です。
もちろん、楽なことばかりではありません。
でも、せっかくこの職場に飛び込んだのですから、いまここにしかない「人の仕事」に、少しでも面白みを見出してもらえたら、先に入った者として嬉しく思います。
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