国税の職場で長く働いていると、人事異動というイベントが毎年のようにやってきます。そしてそのたびに職員の間で交わされる、ある種の恒例句があります。
「なんであの人があそこに行くんだ?」
「人事、意味わかんないよね」
「こっちはずっと署で踏ん張ってるのに…」
こうした声を耳にするたびに、「いや、人事って意外と見てるよな」と思う自分がいます。
これはあくまで私個人の感想であり、しかも私は人事課や主務課、調査部の人事担当に所属したことが一度もありませんので、憶測の域を出ないところがあることをあらかじめご了承ください。
それでも、十数年国税組織の中に身を置いてきた実感として、やはり仕事ができる人は、それなりのタイミングで局や庁に異動している印象があります。
署にとどまり続ける人、上がっていく人
普通科でも専科でも、署で10年近く勤務していて局に行ったことがないという人は、確かに一定数います。もちろん本人が転居を避けたい等の希望を出しているケースもあるでしょうし、家庭の事情で身動きが取れない場合もあるでしょう。
ただ、中には「本人は局を希望していそうなのに、なかなか声がかからないな」と感じる人もいます。そういった人事を目にすると、正直なところ「ああ…そういうことか」と思う部分も出てきます。
安定して仕事に向き合えるかどうか
身も蓋もない話ですが、やっぱり仕事のことを普段からよく考えている人は、最終的に仕事ができるようになります。個人的な肌感覚として、これは間違いないと思っています。
たとえば、子どもがまだ小さくて、日常的に看病や行事対応で勤務に制限がかかるフェーズにある職員は、一定期間どうしても仕事にフルコミットするのが難しくなります。育児や介護と仕事の両立は大切ですが、実際の運用面では「突発の休暇が多い職員」は、局や庁の人事からは敬遠されがちな印象があります。
というのも、局や庁の業務は署と比較したら専門性が高く、かつ短期間で人事異動が発生するため、業務習得のスピードや安定稼働が求められます。頻繁に休まれると、任せた業務が進まず、かといって誰かに引き継ぐ余裕もないというジレンマに陥りがちです。結果として「今の段階ではまだ署で経験を積んでもらおうか」となる。
そうなると、幹部も「局に送り出すなら、もっと身動きのとれる職員にしよう」と判断することになります。たとえば独身の職員や、子育てが一段落した職員などが該当することが多いです。
私自身の話を少し
私が署から初めて局に異動したのは、たしか28歳の年でした。当時は独身で、仕事が特別できたかというと微妙なところですが、少なくとも突発的な病欠などはほとんどなく、毎日安定して職場にはいました。とりあえず出勤している、という存在感が評価されたのかもしれません。
その後、局から庁へ異動したのは結婚直前のタイミングでしたが、ステータス的にはまだ独身でした。いま思い返しても、家庭事情で勤務に制約がかかるフェーズとは無縁だったからこそ、人事上も扱いやすかったのだと思います。
30代以降の働き方が変わる理由
近年は、自由主義的な働き方が重視され、「8時30分から17時00分は仕事、それ以外は自分の時間」というスタンスが一般的になりつつあります。余暇を充実させることは素晴らしいことですし、私自身もそれを否定する気はありません。
しかし、あくまで個人的な経験則ですが、入庁1年目から10年目くらいまでずっとそのモードで過ごしてしまうと、30代以降になってから、いろいろな意味でしんどくなるのではないかと感じています。
というのも、ある程度仕事に集中して「わかるようになる」期間を早いうちに経ておかないと、後になって「あれ?この人年齢の割に仕事の感覚がズレてない?」と思われがちになるような気がします。
皮肉な話ですが、仕事にある程度慣れてくると、実は局や庁のほうが、むしろ仕事や人間関係がラクに感じる瞬間が増えてきます。仕事の内容が高度でも、職員同士のコミュニケーションが一定水準以上であることが多く、また、周りの人の助けも得られやすい環境にあるからです。
優秀な人はやっぱり上がっていく
時折、「この人めちゃくちゃ仕事できるのに、なんでまだ署にいるんだろう」と思う人もいます。でも数年後にふと名前を見かけると、局や庁の主要ポジションでバリバリ活躍していたりします。
つまり、人事というのは長い目で見れば、ちゃんと見ているんだなと感じるのです。多少時間差はあれど、実力ある人はきちんと拾われていきます。逆に言えば、「今の人事は評価されていない」という印象は、一時的なものであることも多いのです。
文句の前に、ふりかえりを
人事異動が出たとき、「なんで自分がこっちで、あの人があそこなんだ」と疑問を感じることは誰しもあるでしょう。私も、正直何度か思ったことがあります。
でもそういうときこそ、人事や幹部を責める前に「自分の仕事はどうだったか?」と振り返ることも大切だと思います。どれだけ稼働できていたか、どんな働き方をしていたか、日々の積み重ねが今の配置につながっているという視点を持つと、人事の見え方も少し変わってきます。
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