ゴールデンウィークもいよいよ終盤です。我が家では、税理士試験の受験を控える妻が日々の勉強に励んでいるわけですが、その横で、インプット教材とアウトプット教材を吟味し、「この時期なら理論より計算じゃない?」などと口を挟み、完全に“お受験ママムーブ”をしているのが私です。
そんな折、妻の教材を買いにジュンク堂書店へ行った際、税理士試験の棚のすぐ隣に、税理士の実務書や事務所経営に関する書籍が並ぶ棚がありました。そこに、ちょっと目を引くタイトルの一冊が置かれていました。
『税理士ならだれでも年収3,000万円』
インパクトのあるタイトルですよね。こういう本を目にすると、なんとなく「数字だけが独り歩きしていて、肝心の中身は薄いのでは?」と身構えてしまいがちなのですが、私は本を選ぶとき、必ず目次とあとがきに先に目を通すようにしています。目次で全体の構成をざっくり把握し、あとがきで著者が本当に言いたいことを探る、というのが私なりの読み方です。
そして、この本のあとがきにあった一文に、私は足を止めました。
「本書で一番言いたかったのは、資格業でなく経営を行うということです。」
税理士業は、国家資格に基づく専門職であると同時に、れっきとしたビジネスです。その本質を突いたこの一文が、私の胸にすっと入ってきました。資格を取っただけで仕事が舞い込む時代ではありません。むしろ、そこからがスタートであり、いかに自分自身のサービスを「経営」していくかが問われるのだと、改めて背筋が伸びる思いがしました。
あとがきにはもう一つ、「読者にお願いしたいのは“行動”です」とも書かれていました。ただ読むだけでなく、まずはやってみること。著者の真剣な語り口が伝わってきて、これは単なる自己啓発本とは違うなと感じ、その場で購入しました。
その日の夜は早めに就寝したのですが、深夜3時過ぎに目が覚めてしまいました。再び寝つけそうにないので、眠気が来るまででも……と軽い気持ちで読み始めたのですが、読み進めるほどに目は冴え、結局朝まで一気に読破してしまいました。
読んでいて何よりありがたかったのは、抽象論ではなく、実際の行動に移しやすいアクションプランが具体的に書かれていたことです。「どうすれば顧客と出会えるのか」「どこに事務所を構えるべきか」「どうやって価格を決めるか」といった問いに対して、しっかりとした根拠とともに著者自身の実践が語られています。
中でも「どこに事務所を構えるか」というテーマについて、ランチェスター戦略の視点を踏まえて語られていた点は印象的でした。税理士の独立開業においては、つい「家賃が安いから」「自宅から近いから」といった消極的な理由で立地を決めてしまいがちです。しかし、そこにきちんと戦略的な意図を持つことで、競合とのポジショニングがまったく変わってくるという発想は、私にとっては新鮮で、大きな学びとなりました。
もっとも、私自身がこれまで勤務してきた国税の現場で得た経験が、どこまでその戦略に活かせるかは分かりません。ただ、「そもそも考えるべきだったのに考えていなかった視点」があったというだけで、読む価値は十分にあったと思います。
そしてこの本の特徴は、「全部やるべきことが書いてある」という姿勢を崩していない点です。その上で、できるところからでも実践すれば成果が出る、という現実的なスタンスが示されています。精神論や根性論に頼らず、経営とは再現性のあるプロセスであるという冷静な視点に、私は安心感を覚えました。
また、本文中には、著者が参考にした経営者や実業家の考え方が随所に紹介されており、自分でもその人物や著作を追ってみようという気になりました。「年収3,000万円」を謳う書籍にありがちな派手なノウハウ紹介ではなく、地に足のついた視点で書かれていることが、この本に対する信頼感の理由かもしれません。
読了後、アドレナリンが出すぎて朝まで眠れず、そのまま筋トレへ。午前中はずっと心拍数が高めの休日を過ごしましたが、ようやく今、夜の21時を回って少しずつ落ち着いてきました。
税理士として独立を目指す方にはもちろんおすすめですが、すでに独立している方や、これから他士業で開業を考えている方にとっても、多くのヒントがある一冊だと思います。タイトルに目が行きがちですが、中身は真面目で実直なビジネス書です。表紙だけで判断せず、ぜひ手に取ってみてください。
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