小学生のころ、『ドラえもん』を読んでいて、今でも忘れられないシーンがあります。
あるコマで、のび太が昼寝をしているのを見て、ドラえもんが「君らしくていいねぇ」と微笑んでいました。ところが、別の巻のあるコマでは、のび太が珍しく斬新なアイデアを思いつき、それをドラえもんにプレゼンしたら、「それは君らしくない素晴らしいアイディアだ!」と喜んでいました。
この矛盾が幼い私にはどうにも解せませんでした。「結局、自分らしいほうがいいのか? それとも自分らしくないほうがいいのか?」と、母親に真顔で尋ねて困らせた記憶があります。母は「そんなこと考えなくてもいいのよ」と笑っていましたが、今思えば、なかなか哲学的な問いだったのではないかと思います。
「自分らしさ」が活きたとき
私自身、「自分らしくいたことで結果がついてきた」と感じた経験があります。税理士試験の簿記論に挑戦したときのことです。
初年度は独学で挑戦しましたが、あえなく不合格。やはり専門的な学習には体系的な指導が必要と痛感し、資格の大原のWeb通信を受講することにしました。そして、講師の言葉を素直に聞き、謙虚に学ぶ姿勢を徹底しました。もともと「誠実さと素直さ」が自分の強みだと考えていましたが、それが功を奏したのか、見事合格することができました。
成果を出すためには「努力の方向性」「時間の使い方」「人生観」がうまく噛み合うことが大事で、これらを支えていたのが「自分らしさ」だったのかもしれません。
「自分らしくなさ」が求められるとき
一方で、今まさに「自分らしさを捨てる挑戦」をしています。それが、税理士として独立するという決断です。
これまでの私は、公務員として「組織に忠実であり、事務処理手順を遵守し、品行方正であること」が自分らしさだと思っていました。しかし、独立するという選択は、その「自分らしさ」から大きく逸脱するものでした。
組織の枠を飛び出し、自分の力で事業を展開することは、今までの価値観とはまるで違います。いかに自分の人生に挑み続けるか、常識を捨てて「自分らしく」生きるのか。この考え方は、以前の自分なら思いもしなかったものでした。
だから、今の私は「自分らしくない挑戦」の最中にいます。うまくいくかどうかはわかりません。ですが、仮に失敗したとしても、「自分の人生に挑戦した」と思えるのなら、それで爽やかな気持ちになれるのではないかと信じています。
「自分らしさ」と「自分らしくなさ」のバランス
結局のところ、「自分らしくあるべき」と「自分らしくない挑戦をすべき」、どちらが正解ということはないのでしょう。
ドラえもんは、のび太が昼寝しているときには「君らしくていいねぇ」と微笑み、斬新なアイデアを思いついたときには「君らしくないけど素晴らしい」と褒めました。つまり、どちらも肯定しています。
仕事や人生においても、場面によって「自分らしさ」を大切にしたほうがいいときと、「自分らしくない新しい挑戦」をすべきときがあるのでしょう。
成功するために努力し続けること、環境の変化に適応すること、新しい視点を取り入れること——それらの中で、「自分らしさ」と「自分らしくなさ」のバランスを取りながら進むことが大切なのかもしれません。
何が正しいかは、その時々で変わるものです。だからこそ、「これは自分らしいか?」「それとも自分らしくないか?」と考えてみるのも面白いかもしれません。
ただ、あまり考えすぎると、小学生のころの私のように親を困らせることになるので、その点は注意が必要かもしれません。
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