国税の職場と“空気を作る人”
国税の職場に長くいると、職場の空気を支配しているのはだれか――という問いに対して、ほぼ全員が直属の上司orその所属部署の長と答えるのではないでしょうか。
それもそのはず、税務署でも国税局でも国税庁でも、基本的に「ピラミッド構造」で動いている職場です。誰の指示で仕事をするのか、誰の承認を取るのか、誰に好かれておいた方が安全なのか。暗黙の了解でみんなわかっているあの空気。
でも、ふとした瞬間に思うのです。
「もしかして、上司って私の鏡なんじゃないか」と。
要領がつかめないときの“あの目線”
私がまだ若手だったころ。
法人課税部門に配属された初日に、統括官の顔が、ほんのり曇っていたのを覚えています。
いや、当時の私に原因があったのは明白です。
前の部署では全く違う性質の仕事をしていて、「法人税調査?なにそれ?」という状態。各種書類の見方もピンとこない、用語も不慣れ、調査の段取りもつかめない。そんな私に対して、統括官の表情は実にわかりやすく、「こいつ大丈夫か…」という雰囲気をにじませていました。
気づけばご機嫌な上司に変わっていた
ところが、数か月経つと、なぜか同じ統括官が妙にご機嫌なんです。
雑談も増えるし、ちょっとした復命にも「いいね、それでいこう」とノリよく返ってくる。あれ、何があったんだっけ、と一瞬混乱するほど態度が柔和になっている。
特に私から何かお願いしたり、媚びを売ったりしたわけではありません。
変わったのは、私の理解力だったような気がします。
統括等に質問するときもここが論点であることを筋を立てて話せるようになる。つまり、私の中で仕事に対する解像度が上がってきたのかと思います。
上司の態度が変わったのは、その変化に呼応してのことだったのかもしれません。
どの部署でも、やっぱり同じことが起きた
似たようなことは、調査部でも、国税庁でも、何度もありました。
あれ、この現象、前にもあったな……と思い返すと、やっぱり、全部「自分が仕事に慣れて、見える景色が変わったあと」に起きているんですよね。
上司の態度は、案外自分で変えられる?
国税の仕事って、正直どこに行っても最初は「なんにもわからない」ところから始まります。
専門性が高い上に、部署ごとの文化も違うので、ひとつひとつ、地味に覚えていくしかない。
でも、その「何もわかっていない状態」で見ている上司って、「ちょっと怖い」とか「厳しい」とか、「自分のことを信用していない」と感じることが多いんです。
ところが、不思議なことに、自分が理解を深めて仕事が見えるようになってくると、上司の態度も変わる。いや、もしかすると、「変わったように見える」だけなのかもしれません。
つまり、上司はもともと「そういう人」だったのに、自分が未熟だった頃はそう見えていなかった――という可能性。
…そう考えると、上司って結局、自分の鏡みたいなものじゃないか、と思えてきます。
「どうせ変わらない」は本当か
もちろん、世の中にはどう転んでも理不尽な人もいます。
説明しても通じない、怒るポイントが意味不明、私にだけ当たりがキツい…そういう人に当たったことがないわけではありません。
でも、そういう人が“少数派”だったのは、単に運がよかっただけではないとも思っています。
「この人には何が見えていて、何を大事にしてるのか?」
そう考えながら仕事に向き合うと、不思議と相手の機嫌がよくなる確率は上がっていきました。
これはもしかして、パブロフの犬みたいなものかもしれません。
上司も人間ですから、「お、この部下はわかってるな」と思えば、ちょっと嬉しくなるし、頼りたくもなるのでしょう。
人間関係と技術は表裏一体
結局、仕事って「人間関係×技術力」だなと思います。
技術だけでも、人間関係だけでもうまくいかない。
でも、技術が上がれば、人間関係が勝手についてくることもある。
なんかズルいような話ですが、これが結構リアルな話だと思っています。
…それにしても、あの統括官、いまもお元気だろうか。
あの頃のように「おっ、いいねそれ。で、どうする?」って言ってくれる声が、なんとなく耳に残っていたりします。
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