元国税だから税理士なのか

 今年、長年勤めた国税の職場を離れ、税理士として独立することを決めました。独立の理由はもちろん「税理士として働きたかったから」というのもありますが、それだけではありません。むしろ、根本的には「一つの組織の名前を借りずに、一人の人間として稼げるのか挑戦したい」という気持ちの方が強かったです。

組織に依存しない働き方への渇望

これまで国税の職場で働いてきましたが、ある時ふと思いました。「この肩書きがなくなったとき、自分には何が残るのだろうか?」と。

公務員という立場は安定していますが、それと引き換えに「個の力で稼ぐ」という経験はほとんど得られません。給与は税金から支払われ、業務は法律と組織の枠組みの中で進められます。つまり、自分の価値を市場で試す機会がないのです。

では、組織を離れたらどうなるのでしょうか。自分の名前だけで仕事が取れるのか。商品が売れるのか。その挑戦をしたいという思いが、日に日に強くなっていきました。

国税の職場文化への違和感

もちろん、職場を辞めようと思った理由はそれだけではありません。国税の職場には、私がどうしても馴染めなかった文化がありました。

たとえば、セクショナリズムの横行です。自分の所掌事務以外のことには関心を持たず、関与しようともしません。これは公務員組織全般に見られる特徴かもしれませんが、特に国税の職場では顕著でした。

さらに、新しいことに挑戦しようとする雰囲気が皆無でした。毎年、前年とほぼ同じことを繰り返し、波風を立てずに無難に過ごそうとする人が多かったです。確かに公務員の仕事は安定していますが、「人生」まで安定させてしまってはつまらないと感じました。

そして極めつけは、「国税は他省庁よりも優秀だ」という謎の自己満足が組織内に蔓延していたことです。仕事がしっかりしているという自負は悪いことではありませんが、他と比べて自分たちは優れていると考える風潮には違和感を覚えました。そんなことを気にするより、もっと自分のやりたいことを突き詰めた方がいいのではないでしょうか。

「問いを作る仕事」との出会い

こうした違和感を抱えながらも、ずっと「独立」という道を決断できずにいました。そんな私の考えを変えたのが、国税庁(霞が関)での勤務経験でした。

それまでの仕事は、「法律や事務提要に基づいて、事務処理を遂行する」というものでした。しかし、霞が関では「そもそもの問い自体を作るところから始める」という仕事を経験しました。

この経験は大きかったと思います。問いを作り、ゼロからイチを生み出すこと。これができるなら、組織を離れたとしても、自分で商品を作り、市場に提供できるのではないかと考えました。

公務員は副業が禁じられているため、まずは税理士資格を取得することにしました。これを土台に、税理士として働く道もあるし、もし別の「自分の商品」を見つけたら、それに進んでもいいと考えるようになりました。

「元国税なら税理士でしょ?」というドグマ

「元国税なんだから、税に携わらないなんてナンセンスだ」と言う人は多いです。確かに、税理士として独立する元国税職員は多く、その道は合理的です。

しかし、私はこの考えには懐疑的です。税務の知識は確かに強みですが、だからといって「税の仕事をしなければならない」というのは思考停止ではないでしょうか。

実際、国税を辞めた後、税務とは関係のない分野で活躍している元職員も大勢います。そして彼・彼女らは、より自由に、より自分らしく生きているように見えます。大事なのは「元国税」ではなく、「自分が本当にやりたいことは何か」だと思います。

これからの道

独立は、舗装された道ではなく、未知の道を進むようなものです。収入は不安定になるでしょうし、最悪の場合、家族から見放され、孤独に野垂れ死ぬかもしれません。

しかし、肩書きを失うことを恐れていません。むしろ、肩書きを脱ぎ捨てることで、ようやく「本当の自分」を取り戻せる気がしています。

これまでの人生、たいていのことは何とかなりました。今回も何とかなるように最善を尽くします。それでダメなら、それでいいと思っています。


シューティングゲーム『斑鳩』のラストシーンでは、制御装置を解除して最後の敵に玉砕する際、機体が操縦者に語りかけます。

“Release the restrain device. Using the released power may result the possibility of destruction the ship.

You did your best.

Was I helpful for you?

I am deeply grateful to you.”

このような人生を生きたいと思います。長生きはしたいですけれども。

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