リップサービスという名の優しさ

ゴールデンウィークの谷間。街はまだ連休気分が抜けきらない中、出社していた私たち数名は「お疲れさま会」と称し、仕事終わりに飲みに行くことになりました。名目はあくまで“お疲れさま”ですが、実態は単に飲みたいだけの人たちが自然発生的に集まっただけ、というのは秘密です。

私は今年に入ってから減酒を心掛けていて、基本的には「機会飲酒」。お誘いがあったときにだけ飲む、という方針を貫いています。今回はその「機会」がやってきたので、せっかくのお声がけを断る理由もなく参加することにしました。所属長もいらっしゃるとのことでしたし、こうした場に顔を出しておくのも社会人として大切なことです。これを機に酒を大量消費しておこうという気持ちではありませんからね。(真顔

向かったのは勝どきにある居酒屋。正直、味と価格に驚きました。あまりに良すぎてここに書きたい気持ちは山々ですが、本題と逸れるので割愛します。どうしても気になる方は、お問い合わせフォームからご連絡ください(そんな人いるんでしょうか)。

さて、飲み会はというと、連休中の弛緩と、出社という現実の緊張がせめぎ合う中で、お酒がいい感じに場をあたためてくれました。そんなこんなで、終始和やかに時間は過ぎていきました。

会が終わると、偶然にも同じ世帯宿舎に住んでいる先輩職員がいらっしゃったので、帰り道をご一緒することになりました。話しながら駅まで歩き、電車に揺られ、なんとも平和な夜でした。

ところが、翌週。

その先輩が私のところへやって来て、ひとこと。

「先週はお疲れさまでした。いやぁ、ちょっと飲みすぎちゃって、記憶があまり無くて…でも楽しかったです。」

……??

私は一瞬、頭の中に「?????」が並びました。

というのも、その先輩、飲み会では終始ノンアルコールだったのです。たしかウーロン茶を手に持ち、終始変わらぬテンションで会話に参加されていました。つまり、記憶が飛ぶような飲み方はしていないはずなのです。

もちろん、私の方が酔っていた可能性もゼロではありません。しかし、相当はっきりとその様子を覚えていたので、記憶の改ざんという線もやや薄い。そうなると、残された選択肢は一つ。

あれはリップサービスだったのではないか。

たとえば、帰り道に私がプライベートなことをベラベラと話していたとしたら。あるいは、酔いの勢いで普段なら言わないようなことをうっかり語っていたとしたら。それを優しく包むように、「私も記憶があまり無くて…」と、なかったことにしてくれたのではないかと。そういう配慮だったのではないかと、私は思ったのです。

もちろん、真意はわかりません。単にその一言で済ませたかっただけかもしれません。

話は少しそれますが、私は「忙しいところすみません」と言われたときには、「いえいえ、めっちゃ暇なんで!」と返すことにしています。これは私なりの思想信条です。相手に「忙しいのに頼んで悪いな」と思わせないようにするためです。

たとえ本当に忙しくても、「めっちゃ暇です」と言って、相手を安心させたいと思うのです。ただし、これにも裏ルールがあります。「本当に暇なんだな」と思って調子に乗ってあれこれ頼んでくる人には、今後しれっと塩対応します。しっぺ返し戦略は、経営戦略としても最も有効であると何かの本で読んだことがあります(出典は忘れましたが)。

つまり、リップサービスというのは、それを受け取る側が「これはリップサービスだな」と気づくところまでがセットなのだと思います。そこまで含めてのコミュニケーションなのです。

「記憶があまり無くて…」

「めっちゃ暇です!」

これらは一見まったく別の文脈に見えますが、どちらも相手への配慮、空気を和らげるためのやり取りなのだと、ふと気づいたのでした。

もちろん、本当に記憶がなかったのかもしれませんし、本当に暇なのかもしれません。ただ、それを言葉にするときの背景には、相手を思いやる気持ちがある。そう思えるようになると、日々の何気ないやりとりが少し違って見えてきます。

できることなら、そういう小さな配慮を自然にできる人間でありたい。配慮されたら、それに気づいてきちんと受け取れる人間でありたい。年齢や役職に関係なく、そう思っています。

そしてもう一つの教訓。

酒の席では、何をしゃべったか覚えていないくらいには飲まないこと。楽しいお酒も、記憶が曖昧になると、あとでモヤモヤするものです。

幸い私は、若干の二日酔いを引きずりつつも、翌朝ちゃんと職場に這ってでもたどり着きました。当該職員らしく。

退職前にもかかわらずノコノコ付いて行ったあの日の飲み会も、そしてそのあとの何気ないひとことも、忘れがたい思い出になりそうですので備忘までにブログ記事とさせていただきました。

おわり。

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