税務の世界をテーマにした映画や小説って、意外とあります。
例えば、1987年公開の映画『マルサの女』。国税査察官(いわゆる「マルサ」)と脱税者の攻防を描いた作品で、当時はかなり話題になりました。私の同期にも「あの映画を観て国税を志望した」という人がいましたし、社会的にもインパクトが大きかったのだと思います。
ただ、時代が変わり、今の若い職員と話していると『マルサの女』を知らない人も増えてきました。「国税がテーマの作品って他にあるの?」と聞かれることもあり、意外とこの手の作品は知られていないのかもしれません。
そんなことを考えていたら、昔、振り出しの支店の上司に「『不撓不屈』を読んだことあるか?」と聞かれたことを思い出しました。その時は「いいえ」と答えたのですが、まさかの「えっ、読んだことないの?」という驚きの反応。同期も誰も読んでいなかったので特に気にする必要はなかったのですが、なぜかちょっとムキになってしまい、その日の帰りに本屋で購入しました。
『不撓不屈』ってどんな本?
高杉良の『不撓不屈』は、実在の税理士・飯塚毅をモデルにした実録小説です。
飯塚毅は、国税と徹底的に理論闘争を繰り広げ、昭和37年には国を相手取って訴訟を起こします。当然、国税側も黙ってはいません。彼への執拗な税務調査が始まり、関与先企業に圧力をかけるなど、まるで報復のような動きがありました。最終的には、飯塚の事務所の職員4名が逮捕されるというところまで発展します。
それでも飯塚は諦めず、ついには国会でこの問題が取り上げられることに。そして昭和45年、職員4名は無罪判決を勝ち取りました。たった一人で国家権力に立ち向かった飯塚毅の姿を描いた作品です。
印象的なエピソードはいくつもありますが、特に衝撃を受けたのは、飯塚が後継者に向かって日本刀を差し出し、「もし事業に失敗したら、これで腹を切れ」と言った場面です。昭和の時代らしいエピソードですが、それほどの覚悟で仕事をしていたのかと驚かされました。
当時読んで考えたことと今
この本を当時読んで、税務調査官としても「自分の腹を切るくらいの覚悟で納税者と向き合っていきたい」と思いました。もちろん、実際に日本刀を持つわけではありませんが、心の中に「自分の腹を切る日本刀」を持っておく。それくらいの責任感は必要だと感じました。
また、飯塚毅の「信念を貫く姿勢」にも共感するところがありました。私は今、国税を辞めて税理士として独立しようとしています。その過程で、決断に迷うことや、壁にぶつかることもあります。でも、飯塚毅のように「信念を持ってやるべきことをやる」という姿勢は、どんな仕事をする上でも大事なのかもしれません。
税理士の仕事って、税務申告を代行するだけではなく、時には納税者の権利を守るために国税と向き合わなければならない場面もあります。その時に必要なのは、知識だけでなく、ブレない信念と胆力。この本を読んで、改めてその大切さを考えさせられました。
飯塚毅の生き方と今の税理士業界
飯塚毅の時代とは違い、現代の税理士は国税と全面対決するような場面は少なくなりました。とはいえ、税務調査の現場では、今も「税務当局の主張がすべて正しいわけではない」という状況が存在します。
私自身、国税職員だったころは「調査する側」でしたが、今後は「調査される側のサポートをする立場」です。この立場になってみると、納税者の視点がよりよく見えるようになると思いますし、税務調査の場面で税理士が果たすべき役割の大きさも実感することになるものと思います。
飯塚毅ほど劇的な戦いをすることはないにしても、「納税者の権利を守る」「理不尽な指摘には論理的に反論する」という姿勢は、今の税理士にも求められていると感じます。
まとめ──『不撓不屈』を読んで感じること
『不撓不屈』は、税理士という仕事について考えさせられる一冊です。
税理士は単なる「申告書を作る人」ではなく、時には納税者を守る盾にもなり、時には国税と向き合う立場にもなる職業です。そうした税理士の役割を考える上で、この本は示唆に富んでいると思います。
また、税理士だけでなく、経営者やこれから独立を考えている人にとっても、飯塚毅の「信念を貫く姿勢」は参考になる部分が多いかもしれません。
私自身も、今後税理士として独立していく中で、この本を読んで感じたことを忘れずに、納税者と向き合っていきたいと思います。
税務の世界や、独立を考えている方にとっては、興味深い本かもしれません。気になったら、ぜひ手に取ってみてください。
コメント