院免、官報、国税OB論争に思うこと

税理士には、いくつかのなり方があります。これはもう、試験制度の成り立ちそのものが複線型になっているため当然なのですが、SNSなどを見ていると、どうやらその多様性が認められにくい空気が、いまだにあるように感じます。

具体的には、「官報合格者こそが真の税理士だ」といった風潮です。

官報合格というのは、税理士試験の5科目すべてに合格した方のことを指します。まぁガチ勢です。これに対し、簿記論・財務諸表論と税法1科目に合格し、残り2科目を大学院の課程修了により免除して税理士になる、いわゆる「院免」の方。そして、私のように国税に一定期間勤め、税法科目(場合によっては会計科目も)の免除を受けて登録する「国税OB」というルートもあります。

一見するとこの3者には序列があるかのように語られる場面が散見されます。官報合格が最上位で、院免はその下、国税OBに至っては「議論の外」といった扱いをされているのを見かけることもあります。もちろんすべてがそうというわけではありませんが、SNSのタイムラインでは、定期的にこの手の“静かな火種”が燃え上がっている印象です。

どことなく見覚えのある構図

この官報・院免・OB論争を眺めていると、私はどうにもデジャヴを感じます。なんだろう、この既視感。ずっと気になっていたのですが、ようやく思い当たりました。

それは、国税職員の採用区分、すなわち「専科」と「普通科」の違いに対する議論にそっくりなのです。

専科は、大学卒業を経て採用される職員。普通科は、高卒で採用され、年齢的には若くても現場経験は早くから積んでいるという特徴があります。
ここでも「普通科で本当にやっていけるのか?」という声や、「大学でモラトリアムしていた4年間の間に、こっちは現場で揉まれていたんだ」という矜持が交錯する場面を、私自身見聞きしてきました。

私が入庁したころは、飲みの場で「これだから専科は……」などと小言を浴びることもありました。今の感覚でいえば、立派なハラスメントに該当しかねない発言です。

ですが、最近ではそうした壁も少しずつ薄れてきたと感じます。年齢も学歴も関係なく、お互いをリスペクトしながら、対等に協力し合う雰囲気が感じられてきたのは、私が退職する直前の頃でした。

では、なぜ争いたがるのか?

この手の論争をSNSで見かけるたびに思うのは、「それって、自分で選べることだったのか?」という点です。

たとえば官報合格。言うまでもなく、非常に難関です。その一方で、家族状況、経済的な事情、勤務環境などから、試験勉強に専念することが難しかった方も多いでしょう。
大学院進学という道を選んだ院免の方にも、それぞれの戦略や考えがあるはずです。

そして、国税OBについていえば、これは試験というより「職歴と実務の厚み」で勝負してきた人たちです。納税者対応の最前線で培った経験を武器に、今後は税理士として独立するという道を選ぶ。それぞれに事情があって、選んだ道が違うだけなのです。

それをあたかも格付けのように扱うのは、なんとももったいない話だと思います。

私にとっての“輪”の話

ここで「関心の輪と影響力の輪」という考え方を思い出します。これは、ある物事に対して「関心はあるけれど、自分ではどうにもできないこと」と、「自分が働きかけられること」を区別するフレームです。

SNS上で見られるこの論争は、明らかに「関心の輪」に属する話です。誰がどのルートで税理士になったかは、もう既に変えられない事実であり、それについて自分が意見したところで相手のルートが変わるわけでもなければ、自分の業務に影響が出るわけでもありません。

それよりも大切なのは、「今、自分ができることを磨く」という“影響力の輪”のほうではないでしょうか。
税理士として、どんな仕事をして、どんな価値を提供していくか。
それこそが、社会からの信頼や顧客との関係に直結する部分であり、日々積み上げていくしかない領域です。

私はこれから、その“影響力の輪”をひたすら回していきたいと思っています。

とはいえ、気にしている自分もいる

ここまで書いておいて何ですが、こうしてブログ記事にしている時点で、私も少なからず“関心の輪”に心を持っていかれている人間なのだと思います。

この記事を読んで、「あなたも結局、気にしてるじゃない」と思った方、大正解です。
でも、だからこそ書きたかったのです。

誰かに認められるために書くというよりも、「誰かにとって、少し肩の力が抜けるきっかけになれば」という感じで書いてみました。

これから先に目を向ける

今後、現場での実務経験のない国税OBとして、時に揶揄される場面があるかもしれません。
「実務知らないんでしょ」と言われることもあるかもしれません。

それでも私は、それらの声に一喜一憂せず、ひたすら自分の“輪”を回していこうと思った無職5日目。人事異動後の最初の月曜日の朝が憂鬱にならずにとても清々しいです。

SNSはほどほどに、自分の人生には本気で向き合っていきたいと思っています。

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