今回の税制改正大綱では、次の点が大きな柱になっています。
- 基礎控除・給与所得控除の引上げによる課税最低限178万円の実現
- 賃上げ促進税制の大企業向け廃止・中小企業向け維持
- 富裕層課税(極めて高い水準の所得)に対する負担の明確な強化
- 青色申告特別控除の拡充と、電子申告・電子帳簿保存の事実上の必須化
- 子育て・就労支援としてのシッター代に対する税制措置の明言
以下、順に見ていきます。
基礎控除・給与所得控除の引上げ|課税最低限178万円へ
まず、今回の改正の中でも最も注目度が高いのが、基礎控除と給与所得控除の引上げです。
令和8年・9年分の所得税について、
基礎控除は 58万円 → 62万円、
給与所得控除の最低保障額は 65万円 → 69万円 に引き上げられます。
これにより、給与所得者の場合の課税最低限は
62万円+69万円=131万円となりますが、ここに基礎控除の特例が加わり、当面の間、結果として所得税の負担開始ラインは178万円となります。
特に実務上重要なのは、基礎控除の特例の扱いです。
- 特例の対象は、給与収入 475万円相当まで拡大
- 控除額は 42万円(現行より5万円増)
- さらに、給与収入475万円〜665万円層についても、特例控除が10万円 → 42万円に引き上げ
これらの措置は、令和8年分(2026年分)所得税から適用されます。
年末調整や源泉徴収事務への影響も大きいため、給与計算を行っている事業者・顧問先には早めの周知が必要です。
賃上げ促進税制の見直し|大企業は廃止、中小企業は現行維持
賃上げ促進税制については、かなり踏み込んだ整理が行われました。
まず、大企業向けの賃上げ促進税制は、適用期限を待たずに廃止されます。
中堅企業についても、令和8年度は要件を引き上げたうえで存続しますが、当初予定どおり期限到来で廃止となる流れです。
一方で、中小企業向けの賃上げ税制については、
- 人材確保のための「防衛的賃上げ」に配慮
- 令和8年度は現行制度を維持
- 期限到来時に、改めて制度の見直しを検討
という整理になっています。
また、実務上見逃せない点として、教育訓練費の上乗せ要件が廃止されます。
会計検査院から「支出額以上に税額控除が発生するケースがある」と指摘されていた点が背景です。
富裕層課税の強化|極めて高い水準の所得への対応
いわゆる富裕層課税についても、明確な引き締めが行われます。
「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」について、
- 特別控除額:3.3億円 → 1.65億円
- 追加課税の税率:22.5% → 30%
とされました。
これにより、年間所得が約1億6,500万円を超える層に対する税負担は、実質的に大きく増加します。
適用は令和9年分の所得税(2027年分)からです。
詳細な制度設計までは大綱段階では踏み込んでいませんが、「富裕層課税を緩める方向ではない」というメッセージはかなり明確です。
青色申告特別控除の拡充|最大75万円、ただし条件は厳格化
個人事業主や中小企業経営者にとって、今回の改正で最も実務インパクトが大きいのが青色申告特別控除です。
まず、従来55万円だった控除について、
- e-Taxによる期限内申告を要件としたうえで
- 控除額が 65万円 に引き上げられます
逆に言えば、電子申告を行わない場合は青色控除は原則10万円のみとなり、電子申告は事実上必須です。
さらに上位区分として、75万円控除が新設されます。
こちらは、65万円控除の要件に加え、
- 仕訳帳・総勘定元帳の電子保存
- 請求書データの保存・訂正履歴管理
など、電子帳簿保存法の要件を満たすことが必要です。
また、簡易帳簿による10万円控除については、
前年等の事業収入が1,000万円超の事業者は対象外となります。
一定規模以上の事業者は、複式簿記+電子対応が前提になると考えてよいでしょう。
これらの改正は、令和9年分以後の所得税から適用されます。
その他の注目改正|シッター代・法人税・消費税など
そのほか、実務上押さえておきたい点として次のような内容があります。
育児や不登校を理由とした離職防止の観点から、ベビーシッター等の利用費用に対する税制措置を講ずることが明言されました。「検討する」ではなく「措置を講ずる」と明記されており、来年夏を目途に具体化される見込みです。
法人税分野では、高付加価値設備への投資を促す設備投資促進税制が創設される一方、投資や賃上げに消極的な企業については、租税特別措置の適用除外を拡大する方向性が示されています。
また、国境を越えた電子商取引に対する消費税の適正化、
国際観光旅客税(出国税)の1,000円 → 3,000円への引上げ、
教育資金一括贈与の非課税措置の廃止なども盛り込まれています。
まとめ
今回の税制改正大綱を一言で表すなら、
方向性は優遇だが、条件は厳密という印象です。
控除額は増える一方で、
電子申告・電子帳簿保存・制度理解といった実務対応力が、これまで以上に求められる気がします。
顧問先や自社の状況によって影響は大きく異なりますので、早めに全体像を把握し、令和8年・9年を見据えた対応を検討しておくことが重要です。
※本記事の内容は政府発表資料に基づくものであり、今後の法令成立等により変更される可能性があります。最新の法令や詳細については必ず公式の情報源を確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。

コメント