独立して失ったもの、得たもの――「収入」より「操縦感」

税理士独立

独立してまず思うのは、組織の中で伸びていく種類の能力が、もう伸びになくなったということです。たとえば管理職としてのスキルです。部下をマネジメントする、会議のロジだったり、関係部署への要路根回しをする。そういう「組織で働く人としての能力」は、組織に所属しているからこそ毎日鍛えられます。

逆に言えば、独立した瞬間にその鍛錬の場はなくなります。自分は今、組織のために報告資料を作ることもありませんし、一元的文書管理システムで決裁を回付することもありません。結果として、サラリーマンの文脈で語れる話題は、たぶんどんどん減っていくのでしょうし、現役サラリーマンの方からしたら、一瀬は話つまらなくなったなと感じられると思います。

もう一つ失ったのは、定期的に入ってくる安定した収入です。もちろん、安定収入は「時間的拘束」と表裏一体です。管理者の指揮命令下で、決まった時間に働く。その対価として毎月の収入がある。独立すると、その仕組み自体が消えます。これは良い悪いというより、単純に「性質が違う」という話です。

得たものは「圧倒的な自分の時間」と「操縦している感覚」

一方で、得たものもはっきりしています。まずは自分の時間です。これは実感として圧倒的です。誰かに管理されることが減り、仕事の組み立てを自分で決められます。朝どこから手を付けるか、何を後回しにするか、どの仕事にどれだけ時間を使うか。すべて自分で決める。これだけでも生活の感触が変わりました。

お金の面だけ見ると、収入は勤めていた頃よりだいぶ少ないです。ただ、それでも「自分の人生を自分で運転している」という実感があります。収入が少ないのに満足度が上がる、というと矛盾に聞こえるかもしれませんが、実際には両立しています。

独立後の仕事は、言ってしまえば「誰も見ていない場所で、やるべきことをやり切れるか」が問われます。組織なら、進捗を聞かれることもあるし、周りが働いている空気もあります。独立だと、そういう監視や同調圧力は弱い。だからこそ、自分で自分を動かす必要がある。そこで自分は、意外とやれている感覚があります。

コロナ禍の在宅勤務が「独立の予行演習」になっていた

思い返すと、その感覚の土台はコロナ禍にある気がします。在宅勤務が増えた時期、部署によっては仕事が薄くなって、自学自習の時間が増えたという話も聞きました。ただ自分の場合、当時はやるべき仕事が多く、在宅であっても仕事量は変わりませんでした。

ここで大きかったのは、「管理職が目の前にいない環境でも、サボらずに一定の成果を出す」経験を積めたことです。これは、独立後に必要になる能力とかなり近い。誰も注意しない、誰も見ていない。その状況で自分を動かせるかどうか。コロナ禍の在宅は、その練習になっていました。

当時はそんな意識はなかったのですが、今になって思うと「勤めている間に、独立の試運転をしていた」と言えます。独立に向いているかどうかは、能力というより環境への適応の問題も大きいので、この経験が自信につながっているのだと思います。

収入を急いで取り戻すより「時間の使い方」を練習している

独立したら、勤め人時代の収入を早く超えるべきだ、という考え方はよくあります。もちろん、それが必要な人もいます。家計の状況や目標次第で、早期に売上を上げる必要がある場合もあります。

ただ自分は、今すぐに勤めていた頃程度の収入が欲しいという気持ちは、そこまで強くありません。少し時間にゆとりができた今、やっているのは「時間をおおらかに使う練習」です。これは怠けるという意味ではなく、時間の配分を自分で設計する練習です。

もう一つは、お金を使うことの練習でもあります。独立して収入が減ったのにお金を使う練習、というのは一見おかしいですが、時間とお金は結びついています。たとえば、時間を生むためにお金を使う。あるいは、体験を増やすためにお金を使う。そういう「お金の使い方」を、自分の価値観で選ぶ練習です。勤めていると、収入の安定がある分、考えなくても回る部分が多い。独立すると、良くも悪くも自分で決める場面が増えます。

独立した以上、初期から勢いよく伸ばさないと取り返しがつかない、という見方もあると思います。実際、そういう局面があることは否定しません。自分もそこに迷いはあります。ただ、今の自分は「それでも、今の生活の質を手放したくない」と感じています。失ったもの、切り捨てたものとして折り合いをつけつつ、前に進む。そういう選択をしている段階です。

独立して分かったのは「自分に合う不自由」と「合わない不自由」があること

独立が良いか、組織が良いか、というのはどちらが優れているかではないのだと思います。独立は自由に見えますが、実際には「自由の代わりに自分で責任を取る」という不自由があります。組織は不自由に見えますが、「責任や段取りをある程度引き受けてもらえる」という楽さもあります。

自分の場合は、今のところ独立の不自由のほうが、組織の不自由よりも自分に合っています。収入は減ったけれど、人生を自分で操縦している感覚がある。監視がなくても自分を動かせる、という自信がある。時間の使い方を自分で組み立てていける。これらが、今の自分には大きい。

この先、状況が変われば考え方も変わるかもしれません。ただ少なくとも現時点では、「独立してよかった」と言えるだけの実感があります。失ったものは確かにある。でも、得たものもまた、はっきりとある。

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