――SBIハイパー預金の金利キャンペーンを題材に考えてみる――
「年4.2%」といった非常に高い預金金利をうたう銀行キャンペーンを見かけることがあります。今回はその一例として、SBIハイパー預金の金利キャンペーンを題材に、銀行の預金キャンペーンに共通するカラクリを、制度面と計算面の両方から見ていきたいと思います。特定の銀行を批判したいわけではなく、銀行の金利キャンペーン全般に対する注意喚起として読んでいただければと思います。
参考:SBIハイパー預金の金利が最大10倍の年4.2%(税引前)!12月10日よりキャンペーン開始予定!
年4.2%は「年利換算」というだけの話
今回のキャンペーン期間は、2025年12月10日から2026年3月31日まで、約112日間です。まずここで最初の注意点が出てきます。広告などでよく見かける「年4.2%」という表現は、あくまで年利換算の数字であり、実際にその金利が1年フルで適用されるわけではありません。
現実に適用される利息は、
年4.2% × 112日 ÷ 365日
という形で日割り計算されます。
したがって、「年4.2%が丸々もらえる」という印象を持ってしまうと、ここに最初の認識のズレが生まれます。銀行側の表現として間違いではありませんが、受け手としては必ず期間補正をかけた実効利回りで考える必要があります。
1兆円に達しなければ年4.2%にはならない
今回のキャンペーンの最大の特徴は、SBIハイパー預金の総残高が1兆円に達した場合に、初めて年4.2%(税引前)相当になるという点です。逆に言えば、1兆円に届かなければ、この金利水準そのものが成立しません。
つまり、預金者一人ひとりが高金利の恩恵を受けられるかどうかは、他のすべての預金者の動向次第という構造になっています。この点は、広告だけを見ていると意外と見落としがちですが、仕組みとしてはごく冷静に受け止めておく必要があります。
税引後「年3.3467%」の意味
もう一つ重要なのが、税引後の金利表示です。今回の「税引後 年3.3467%」という数字は、次の計算から出ています。
預金利息は源泉分離課税で、
所得税15.315%+住民税5%=20.315%
が自動的に差し引かれます。
したがって、
年4.2% × 79.685% = 年3.3467%(税引後)
という計算になります。
この点は制度として確立している話なので、特別な落とし穴というわけではありませんが、「年4.2%」という数字だけを見てしまうと、実際の入金額は約2割減るという点は、常に意識しておくべきポイントです。
実際に手元に入る金額はいくらか
今回のキャンペーンで、実際に利息が上乗せされる残高には上限100万円が設けられています。そこで、最大条件(1兆円達成・通常金利0.42%・112日間)をすべて満たした場合を、あらためて整理してみます。
通常金利:年0.42%
キャンペーン金利:年4.20%
差し引き上乗せ分:
100万円 ×(4.20%-0.42%)÷ 365日
= 約103円/日(税引前)
そこから
所得税15.315% → 約15円
住民税5% → 約5円
が差し引かれ、
103円-20円 = 約83円/日(税引後)
これを112日間続けると、
83円 × 112日 = 約9,296円
です。
つまり、100万円を約4か月弱預けて得られる追加利息は、最大でも1万円に届かない程度という計算になります。
確実に得なのか、労力も含めて考える
この約9,000円強を「確実に得できる」と考えるか、「思ったより少ない」と感じるかは、人それぞれだと思います。考えてみると、
- 口座開設の手間
- 資金移動の手間
- キャンペーン条件の管理
- そしてこうした判断に要する「考える時間」
これらはすべて、実質的には自分の時間と労力というコストです。100万円を拘束して約9,000円という数字を見たときに、「自分の時間単価と見合っているか」という視点で考えてみるのも、一つの整理の仕方だと思います。
もちろん、リスクゼロで確実に取れる利益という意味では、一定の合理性はあります。ただし、「リスクを取らずに大きな利益を得る」というのは、やはり現実的にはなかなか難しい、ということも同時に見えてきます。
d-neobankとの違いについて少しだけ
なお、私自身が日常的に使っているのは、いわゆるd-neobank(旧・住信SBIネット銀行)ですが、これは今回取り上げたSBI新生銀行とは法人としてはまったく別の銀行です。名前に「SBI」と入っているため混同されやすいですが、サービス内容や位置づけは異なります。
まとめ:高金利キャンペーンは分解して考える
年4.2%という数字は確かに魅力的に見えます。ただし、
- 年利換算であること
- 実際は日割りであること
- 税金が約2割引かれること
- 上限100万円であること
- 1兆円達成が前提条件であること
これらを一つひとつ分解して見ていくと、「思っていたほどのインパクトではない」という結論に落ち着く方も多いと思います。
銀行の金利キャンペーンは、どこも似たような仕組みのもとで設計されています。大切なのは、数字の字面をそのまま鵜呑みにせず、自分で分解して実額を見ることではないかと思います。


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