社保削減スキームに関する倫理観、私の所見

社会保険

マイクロ法人という言葉が広く知られるようになり、社会保険料を抑える手段としてインターネットやSNSで見かけることが増えてきました。今回は、マイクロ法人という発想がどこから生まれるのか、最近話題になっている「社保加入サービス」とどう違うのか、そして税理士としての倫理観についてです。

マイクロ法人という発想の出発点

まず前提として、マイクロ法人とは社会保険料を最適化するために設立する小規模な法人のことです。個人事業主が負担するものは「税金」と「社会保険料」という二つの柱があります。この二つを一度に減らそうとするとどうしても複雑になるため、問題を分解して考えることが重要です。

ひとつは法人側で社会保険料を最適化すること。もうひとつは個人事業側で稼ぎ方や税金の調整に集中すること。この二本立てで考えることで、家計全体の効率が上がります。

たとえば、マイクロ法人を作り、自分をその法人の役員として雇います。年間の役員報酬を給与所得控除の範囲に収めると、所得税と住民税は原則ゼロになり、社会保険料も会社負担と個人負担の合計で年間約26万円ほどに抑えることができます。

一方で、個人事業のほうは売上が増えても社会保険料が増えません。なぜなら、社会保険にはすでに法人側で加入しているためです。つまり、個人事業は純粋に税金の最適化だけを考えればよく、「社会保険料と税金を切り離す」という発想こそがマイクロ法人スキームの核心です。

扶養の有利・不利という制度的な現実

社会保険制度には、会社員家庭を優遇する仕組みが多く存在します。健康保険では、配偶者や子どもを扶養に入れることができ、家族が増えても保険料は増えません。一方、国民健康保険にはそもそも扶養という概念がなく、人数が増えるほど保険料の負担は重くなります。

年金制度でも同様で、会社員の配偶者は「第3号被保険者」となり、保険料の負担なく国民年金に加入した扱いになります。フリーランス家庭では配偶者も自分で保険料を納める必要があります。

この制度的な違いを踏まえると、扶養家族がいる家庭ほどマイクロ法人によるメリットが大きくなるのは自然な流れです。ただし、法人の事業内容と個人事業の事業内容は別でなければならず、単に同じ事業を二つに割っただけでは税務署から否認されるリスクがあります。

社保加入サービスについて

近年、個人事業主の間で注目されている「社保加入サービス」について触れておきます。これは、自分でマイクロ法人を作らず、サービス提供者の運営する一般社団法人などの役員として登録され、その法人を通じて社会保険に加入するという仕組みです。

役員という立場は、労働基準法や最低賃金の適用対象外となるため、月額数万円という低い役員報酬でも社会保険加入が可能になります。従業員であれば最低賃金の制約があるため、同じ方法は使えません。ここが制度上のポイントです。

加入者が支払う料金の中から法人側が保険料を納付し、役員報酬が低い分、法人が負担する保険料も少なく、差額がサービス提供者の利益となる構造です。形式としては合法ではあるものの、「役員という立場を利用し低い保険料で加入する」という仕組みであることは理解しておく必要があります。

実際の業務内容は月に一度数分程度のアンケート回答といった簡易なものにとどまる例が多く、形式的な業務関与によって「理事としての活動実態」を作るためのものが中心です。

さらに、役員として登録される以上、氏名が登記簿に掲載されます。登記簿は誰でも閲覧可能であるため、本名を公開したくない人にとっては大きなデメリットです。プライバシーの観点を気にされる方は注意が必要です。

そして、制度の趣旨から外れた利用と見なされれば、将来規制される可能性がないとはいえません。加入が遡って無効とされ、過去の国民健康保険料をまとめて請求されるようなケースが理論上あり得るため、この点も慎重に考える必要があります。

税理士としての倫理観と個人的な考え

私自身がどう考えているかを整理します。

まず、マイクロ法人そのものについては、実際に事業が二つ存在するのであれば積極的に検討してよいと考えています。制度として合法であり、国がそのような制度設計をしている以上、これを使うことを倫理的に否定する理由はありません。実態の伴わない分割や形式だけの法人化は別問題ですが、健全な範囲で行うマイクロ法人化は合理的な選択肢です。

一方で「社保加入サービス」については、制度上認められているとはいえ、構造的に不安定な部分を抱えているのも事実です。本人がその仕組みを理解し、登記やリスクを受け入れたうえで利用したいと言うのであれば、特に止める理由はありません。ただ、将来的にどう扱われるかについては一定の不確実性があることは伝えておくべきだと思っています。

マイクロ法人や社保加入サービスは、所得だけでは測れない部分に影響を及ぼす制度です。家族構成や将来の見通しによってメリット・デメリットは変わります。制度を正確に理解し、自分にとって無理のない形で活用すること。それが健全な使い方ではないかと感じています。

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