iDeCoは60歳まで原則として引き出せない代わりに、掛金が全額「所得控除」になります。所得控除とは、ざっくり言うと「税金を計算する前の所得を小さくできる仕組み」です。
この点を根拠に、SNSで「年収500万円くらいなら掛金の約20%が節税になる。つまり年利20%のファンドを買ったようなもの」という趣旨の投稿を見かけました。
言いたいことは分かるような気がしますが、やや不正確だなと感じました。なぜなら、そこで起きているのは“年利で増える”ではなく、“その年に一回だけ確定する上乗せ”だからです。
数値例:10万円拠出で2万円得する。でもそれは「1回きり」
例として、年10万円をiDeCoに拠出したとします。税率は20%とします(所得税と住民税を合わせたイメージで、実際は状況で変わります)。
- 年10万円拠出
- 10万円 × 20% = 2万円ぶん税金が減る(または還付される)
ここまでは分かりやすいです。この瞬間だけを見ると、「10万円が12万円になったような感覚」になります。だから“20%”という数字が強く印象に残ります。
ただし、この2万円は、翌年以降に勝手に毎年20%で増えるわけではありません。節税は、拠出した年に確定する“その年の効果”です。
複利で増えるのは「iDeCoの中の運用」。節税そのものは増殖しない
同じ例で、iDeCoで買っている投資先が翌年に年利5%で増えたとします。
- iDeCoに入れた年10万円が、翌年に5%増えて10.5万円になる
この10.5万円は、さらに翌年も5%で増えれば、また増えます。ここは複利(増えた分も元手として次も増える)になりえます。
一方で、さきほどの「2万円の節税」は性質が違います。2万円は“運用益”ではなく、“税金が減ったぶんの現金”です。増えるかどうかは、その2万円をどう使うか次第です。
たとえば、その2万円を同じ投資先に回して、年利5%で運用したとします。
- 2万円 × 5% = 1,000円の増加
- 2万円が2万1,000円になる
ここで増えた1,000円は投資の成果です。しかし、この話は「2万円が年利20%で増えた」という意味ではありません。増え方はあくまで年利5%です。
つまり、
- iDeCoの中で増えていくのは、拠出した10万円(とその後の運用残高)
- 節税で浮いた2万円は、放っておけば2万円のまま
- 投資すれば増えるが、その増え方は投資先の利回り次第(この例では5%)
という切り分けになります。
「年利20%」と感じるのは“利回り”ではなく“割引”
では、なぜ「年利20%」みたいに見えるのか。ここは言い方を変えると整理しやすいです。
iDeCoの所得控除は、利回りというより「購入時の割引」に近い動きです。年10万円拠出して、2万円税金が減るなら、手元感覚としては
- 10万円の投資をするのに、実質の持ち出しが8万円っぽく見える
こういう感覚が生まれます。ただし、割引があるのは「その年の拠出」に対してで、翌年以降ずっと続く“年利”とは別物です。
この違いを押さえておくと、「節税メリットは複利で膨らむのか」という疑問に、落ち着いて答えられます。
受け取り時の話を抜くと、誤解が残りやすい
もう一点だけ。iDeCoは拠出時に控除がある一方で、受け取るときに課税の論点があります(受け取り方に応じて、退職所得や年金として扱われ、一定の控除があります)。
このため、「拠出時点で20%得した=永久に20%の利益が確定」という言い方は不正確になります。多くの場合、受取時は控除が効いて有利になりやすいのですが、最終的な有利不利は受取時の状況にも左右されます。
iDeCoの節税は、「その年に確定する即時リターン」です。年利ではありません。ただ、拠出のたびに税率分の上乗せが起きるのは事実で、これが運用の複利と並行して進む点に制度の強さがあります。受取時に何が起きるかまで含めて理解しておくと、過大評価も過小評価もしにくくなるような気がします。

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