居住用賃貸物件の貸主さんはご注意――退去時の「現状回復費」は消費税の課税売上に

消費税

退去時の現状回復費を「課税売上」にしていない例が意外と多い

不動産賃貸業(居住用アパート等)をされている方で、借主の退去時に敷金から差し引いた現状回復費を、消費税の課税売上として処理していない例が散見されます。居住用家賃は非課税(原則、消費税がかからない)なので、「退去時の精算もまとめて非課税」という感覚になりやすいのだと思います。

ただ、借主が負担すべき現状回復を、貸主が借主に代わって実施し、その対価を敷金から差し引く形で受け取る場合、税務上は「貸主が借主に対してサービス(役務)を提供した」と整理され、消費税の課税対象になります。

なぜ課税か:現状回復は「役務の提供」と整理される

借主は退去に際して、原状回復(現状回復)の義務を負うのが一般的です。その義務を果たすために必要な修繕等を、貸主が借主に代わって手配・実施し、費用を借主負担として精算する――このとき貸主が借主に行っているのは、「借主のために修繕等の手配・実施をした」という役務の提供です。

消費税の世界では、物の売買だけでなく、修繕・運送・保管などの役務の提供も「資産の譲渡等(役務の提供)」に含まれます(消費税法基本通達5-5-1の趣旨)。現状回復費が課税売上になり得るのは、この整理を拠り所としています。

ポイントは、「実際に工事をしたのが貸主か業者か」ではなく、借主から見て“貸主に対価を支払っていることです。敷金から差し引いていても、経済的には借主が負担しているので同じです。

数値例:敷金10万円から現状回復費3.3万円を差し引くケース

例として、次の状況を置きます(消費税率10%)。

  • 敷金:100,000円(入居時に受領)
  • 退去時の現状回復費:33,000円(税込)
    • 内訳:税抜30,000円+消費税3,000円
  • 残額の敷金:67,000円を借主へ返金
  • 現状回復工事は業者に依頼し、業者へ33,000円(税込)を支払

この場合、貸主が借主から実質的に受け取っている現状回復費のうち、税抜30,000円が課税売上げ(課税標準)になり、消費税3,000円は仮受消費税額等として整理します。敷金から差し引いているので現金の動きが見えづらいですが、課税関係は生じています。

仕訳例:どの金額が課税売上を構成するか

会計処理を、動きが分かるように段階で書きます(科目名は一例です)。

1) 入居時:敷金を預かる

(借方)普通預金 100,000  /  (貸方)預り敷金 100,000

ここは単なる預り金です。売上ではありません。

2) 退去時:敷金から現状回復費(税込33,000円)を差し引く

この時点で、貸主は借主に対して現状回復という役務を提供し、その対価を確定させています。

(借方)預り敷金 33,000  /  (貸方)雑収入(現状回復収入 等) 30,000

               /  (貸方)仮受消費税等        3,000

この「30,000円」が課税売上の本体です。
「33,000円を全部売上」にしてもよいですが、消費税を区分しておくと後が楽です。

3) 業者へ工事代を支払う(税込33,000円)

(借方)修繕費    30,000  /  (貸方)普通預金 33,000

(借方)仮払消費税等 3,000

4) 残った敷金を返金する

(借方)預り敷金 67,000   /  (貸方)普通預金 67,000

実務上の注意点:家賃は非課税でも、精算項目は別物

居住用家賃が非課税であっても、退去時の精算項目まで一律に非課税になるわけではありません。現状回復費は、性質として「家賃」ではなく、貸主が借主に対して行う修繕手配等の役務提供(サービス)の対価という整理になります。

この点を誤っていても、制度の選択や取引状況によっては、結果として納付税額が大きく変わらない場合もあります。ただし、簡易課税や2割特例を適用している場合、または(原則課税の中でも)個別対応方式・一括比例方式を採用している場合は、課税売上の計上漏れがそのまま納付税額の誤りにつながりやすくなります。

退去精算で敷金から差し引いた現状回復費について、課税売上に含めて処理できているかを一度確認しておくと安心です。

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