国税に入庁して6年目くらいの頃、突然課長に呼ばれ「他省庁に出向だ」と言われました。国税の職場では、極めて稀に他省庁に出向する職員がいますが、自分がその1人になるとは思いませんでした。そこは、若手を集めたプロジェクトチームのような場で、各省庁から2~7年目くらいの職員が集められていました。期待と不安を胸に、未知の職場へ足を踏み入れることとなりました。
カルチャーショックから始まった日々
着任の日には職場の会議スペースで歓迎の懇親会が開かれました。缶のお酒やお菓子が並び、職場内で酒盛りをするなんて国税の常識ではありえない光景。国税では年の離れた先輩ばかりでしたが、ここには同い年くらいの仲間が複数いて、それだけで「このメンツなら楽しそう」と感じました。
しかし、この歓迎ムードが最初のカルチャーショックに過ぎなかったと気づくのに、それほど時間はかかりませんでした。
他省庁の職員、レベルが高すぎる
業務を始めてみると、まず驚いたのは彼らの知識とスキルの高さ。ある職員は政策の背景にまで精通しており、仕事に必要な基礎知識が既に備わっている。別の職員は資料を読み解くスピードが尋常ではなく、的確なコメントを即座に出してきます。
さらに、疑問点は専用のエクセルシートに書き込むスタイルで、上司がそれに回答する仕組みでした。この方法がスパイラル的に積み重なり、1週間もしないうちに膨大な仕事量が処理されていく。私はというと、何とか追いつこうと必死で、「存在感をアピールしないと置いていかれる」と焦る日々でした。
同じ国家公務員と言えども、彼らの持つ知識の幅広さや、効率的な仕事の進め方は未知のものでした。私は「自分がいかに狭い視点で仕事をしていたか」を痛感し、それまでの常識が良い意味で塗り替えられていく感覚を味わいました。
「危機感」と「成長」を手に入れた日々
この経験は、その後の国税職員としてのキャリアに大きな影響を与えました。一仕事終えるたびに、「他省庁の職員なら、もっと効率的に、もっと精度高くやっただろう」と感じるようになり、自分の仕事を客観視し改善点を探すようになりました。
特に印象深いのは、「引継書の重要性」を学んだことです。出向期間の終盤、次年度への引継書を作成するために時間を費やしました。それまでの税務署の仕事では身ひとつで何とかなると感じていたため、これには驚きました。引継書の要素や重要性を学んだ経験は、その後の国税の職場でも活かされ、異動の内示が出る前から準備するようになりました。
また、業務を進める中での「周囲との連携」の大切さを改めて学びました。他省庁ではチームメンバー同士の情報共有が非常にスムーズで、常に全員が共通のゴールに向かって進んでいました。この姿勢を見て、「自分の得意分野を活かしつつも、周囲と協力する柔軟性」を大切にするようになりました。
希望を持って迎える新しい一歩
この出向期間の経験がもたらした「危機感」と「成長」は、今の私を支えています。そして、この経験があるからこそ、他省庁でもまがりなりにも通用したという実績をもとに、「いざ独立してもやっていけるだろう」という希望的観測を抱くことができています。
現在、国税職員としての最後の1年を迎えていますが、あの出向期間の経験がなければ、今の自分はいなかったと思います。同じ職場にとどまるだけでは得られない視点や刺激が、私に新たな道を切り開く勇気を与えてくれました。
新しい視点や刺激を得ることで、自分の限界を広げられる。だからこそ、成長のためには環境を変え、未知の世界に飛び込むことが必要だと実感しました。あの出向期間が私に教えてくれたのは、挑戦こそが新しい未来を切り拓く鍵であるということでした。
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