漫画『ようこそ!FACTへ』を読んで思ったこと

「ようこそ!」って言われたのに、全然歓迎されている気がしない。むしろ、読めば読むほど社会の闇に引きずり込まれるような感覚になる。そんな漫画、『ようこそ!FACTへ』を読みました。

この作品は、陰謀論をテーマに知能格差が生む人間関係の断絶を描いたものです。「これ、フィクションの皮をかぶったノンフィクションなんだろうな」と思いながら読み進めていました。今回は、この作品がいかに残酷すぎるリアルを突きつけてくるのか、登場人物たちの関係性や、知能格差が生む「通じなさ」について語ってみたいと思います。

知能格差の残酷さをリアルに描く飯山さんと渡辺くん

本作のヒロイン・飯山さんと主人公・渡辺くん。この二人を見ていて感じるのは、「そもそも会話として成立してるのか?」という疑問です。同じ日本語を話しているはずなのに、まるで異文化コミュニケーションを見ているようなズレが生じています。

飯山さんは知能が高く、論理的に物事を考えられるタイプ。しかも、早稲田大学の学生というハイスペ。一方の渡辺くんは、高校卒業後に冷凍肉の積み下ろしの仕事に就いており、彼女の話す言葉の多くが理解できません。さらに、自分の考えを適切に言葉にすることすら難しく、二人の間には埋めようのない溝が存在しています。

ここで面白いのが、飯山さんは決して渡辺くんを見下しているわけではないこと。むしろ、彼女は優しい。でも、それがまた残酷なんですよね。知能が高く、育ちも良いからこそ、彼女は「対等に接しているつもり」なのですが、渡辺くんからすれば「分からないことを優しく説明されること自体が屈辱的」になってしまう。そのギャップが、この作品の絶妙な気まずさを生んでいます。

言葉が通じないという絶望

そもそも、言葉が通じないってどういうことなのか。

知能の高い人は、概念を理解し、それを言葉に落とし込むことができます。でも、知能が低い側にとっては、同じ言葉を聞いても「何を言っているのか」すら分からない。たとえば、「抽象的な概念を視覚的にイメージしてね」と言われても、脳内に何も浮かばない状態。渡辺くんが飯山さんの話を聞いているときの「ポカン」とした顔が、その辛さを物語っています。

そして何より、この「通じなさ」が絶望を生む。自分の言葉が相手に伝わらない。相手の言葉を自分が理解できない。これって、ただの「会話のすれ違い」じゃなくて、生きる上での根本的な問題なんですよね。

陰謀論に引き寄せられる心の隙間

この「通じなさ」から生まれるのが、渡辺くんの陰謀論への傾倒です。

彼の世界には、「自分を理解してくれる人」がほとんどいません。そんな中、陰謀論の「マスター」と呼ばれる人物が、「お前は騙されている」「本当のことを知るのは選ばれし者だけだ」と囁く。すると、それまで疎外感を抱えていた渡辺くんにとって、それが「救いの言葉」に聞こえてしまうんです。

陰謀論って、「知能が低い側の人間のための物語」です。もちろん、すべての陰謀論者がそうとは言いませんが、「分かりやすい答え」が与えられるからこそ、人はそこに飛びついてしまう。そして、一度信じてしまうと、「自分は特別な存在である」という感覚が得られる。これが、渡辺くんを陰謀論の沼に引き込みます。

特に、彼がワイフェスでのテロ行為を計画するシーンは、読んでいて本当にしんどい。でも、現実でもこういう流れで過激な行動に走る人は少なくないのかもしれません。

自分の過去を思い出してみると…

この漫画を読んで、「言葉が通じない」という経験について改めて考えさせられました。私自身、周囲の人が簡単にできることが、自分にはうまくできなかった経験があります。

たとえば、幼少期の習字の時間。私は左利きなのに、当時は「右手で書くのが当たり前」の時代でした。だから、無理やり右手で筆を持ち、ひどい仕上がりになりました。それが教室に飾られるのが、拷問です。「僕は左利きなのに!」と叫びたかったけど、作品は何も語らない。右利きの子たちの作品と並べられて、「ああ、自分は劣ってるんだ」と感じざるを得ない。生存競争の過程の中で適応できていないのではという生物学的な不安感というのでしょうか。あのときの惨めさと、「言葉が通じない」ことの辛さって、どこか似ている気がします。

『ようこそ!FACTへ』を読んで思ったこと

この漫画を読んで、「知能格差って、やっぱりしんどいな」と改めて感じました。知能が高い側の人間には、「なぜ相手が理解できないのか」が分からないし、知能が低い側の人間には、「なぜ自分が理解できないのか」が分からない。このすれ違いが、人と人の間に深い溝を作ってしまう。

また、この作品では、渡辺くんの働く職場の雰囲気や、陰謀論にハマる心理が妙にリアルに描かれていて、「ああ、こういう人、いるよな…」と感じる場面が多かったです。特に、「通じないことが絶望を生む」という部分には強く共感しました。

暗くて重い話ですが、考えさせられることも多い作品でした。いや、本当に気軽に読める話ではないんですけどね。でも、読んでしまった以上、しばらく頭から離れそうにありません。

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