公的年金の「確定申告不要」の範囲――3つの注意点

所得税

公的年金等を受け取っている方については、一定の条件を満たすと所得税の確定申告が不要になる制度があります。よく知られているのは、「公的年金等の収入金額が400万円以下」で、「公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下」という基準です。しかも、この制度は公的年金等の全部が源泉徴収の対象であることが前提になっています。

ただ、実務ではこの要件をかなり単純化して覚えている方が多いです。その結果、「申告しなくてよいと思っていたが、実は必要だった」というズレが起きます。公的年金の申告不要制度は便利ですが、入り口の条件は思ったより細かいです。

20万円判定では、青色申告特別控除などを先に使ってはいけない

まず誤解されやすいのが、「青色申告特別控除55万円を引いた後の所得が20万円以下なら、公的年金の申告不要制度に入るのではないか」という考え方です。

ここはそうなりません。20万円以下かどうかを判定するときは、確定申告書の提出、申告書への記載、明細書の添付などを要件として適用される特例等は、適用しないで計算した所得金額で見ます。要するに、「申告したら使える特例」を先に使って、申告不要かどうかを判定してはいけない、ということです。

これは制度の構造から考えると自然です。申告しない前提の判定なのに、「申告しないと使えない控除」を前提にしてしまうと話がおかしくなってしまいます。青色申告特別控除のような制度は、申告するからこそ使えるものであって、申告不要判定の入口ではいったん外して考える必要があります。

源泉徴収されない年金があると、申告不要制度の前提から外れる

次に注意したいのは、年金収入の中に源泉徴収の対象とならない年金が混ざっている場合です。たとえば、外国の制度に基づいて国外で支払われる年金などが典型です。

国税庁の案内でも、公的年金等に係る申告不要制度は「公的年金等の全部が源泉徴収の対象となる場合に限る」とされています。したがって、源泉徴収されない年金を受け取っている方は、この申告不要制度を使えません。

ここは感覚的に間違えやすいです。「年金収入は全部まとめて公的年金」と見たくなりますが、制度は支払形態まで見ています。年金の種類よりも、「全部が源泉徴収対象か」を先に確認したほうが安全です。

給与がある人は、所得金額調整控除を“適用後”で判定する

もう一つ細かいけれど大事なのが、給与所得と年金所得の両方がある人の扱いです。こういう人には、一定の場合に所得金額調整控除が適用され、給与所得の金額が下がることがあります。国税庁も、給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除があることを案内しています。

公的年金の申告不要制度で問題になる「公的年金等に係る雑所得以外の所得金額」を判定するとき、この給与所得を調整控除適用前で見るのか、適用後で見るのかで迷うことがあります。ここは、所得金額調整控除を適用した後の給与所得の金額を基に判定する整理になります。所得金額調整控除は、総所得金額を計算する際に給与所得の金額から控除する仕組みだからです。

したがって、給与と年金の両方がある方は、「給与収入ベース」でざっくり20万円超と決めつけず、調整控除後の給与所得で見直したほうがよい場面があります。

「申告不要」と「申告しないほうが得」は同じではない

ここまでの話は、あくまで「所得税の確定申告が不要かどうか」の判定です。実際には、還付を受けたい場合には確定申告をしたほうがよいことがありますし、公的年金等以外の所得が20万円以下で所得税の確定申告が不要でも、住民税の申告が必要な場合があります。

つまり、「申告不要」は“出さなくても違反ではない”という話であって、“出さないのが最善”とは限りません。公的年金の世界は、条件が少しずつずれているだけで結論が変わるので、短いフレーズだけで覚えると危ないです。

整理すると、見落としやすいポイントは次の3つです。
公的年金400万円以下・他所得20万円以下という条件は、そのまま機械的に当てはめるのではなく、
① 20万円判定では申告要件付き特例を外す
② 年金は全部が源泉徴収対象である必要がある
③ 給与があるなら所得金額調整控除後で判定する
この3点を押さえておくと、大きなズレは減るかと思います。

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