簡易課税は「一度使えなくなったら消える」とは限らない――届出書の効力で誤りやすい例

消費税

税理士賠償の話になると、消費税はかなり上位に来る税目だと思います。税率や計算方法が複雑だから、というより、届出書の有無や効力の引継ぎミスが起きやすいからです。

特に、税理士が交代した場面は後任の税理士は注意が必要だと感じます。前任者がいつ、どの届出書を出したのか。簡易課税を選択していたのか。不適用届出書は出ているのか。こうした履歴が十分に確認されないまま申告期に入ると、思わぬ事故につながります。

消費税の怖さは、今年の判断をしているつもりが、実は数年前の届出書の効力に影響されていることがある点です。

誤解されやすい論点:「一度使えない年があったら効力は消えるのか」

簡易課税で特に誤解されやすいのが、簡易課税制度選択届出書を出した後、一度でもその制度を使えない年があったら、その後、その効力は消えるのではないかという認識です

その制度を使えない年とは、たとえば、次のような場合です。

  1. その課税期間の基準期間における課税売上高が5,000万円を超えたため、その課税期間は簡易課税を使えない場合
  2. その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下となり、その課税期間は免税事業者となった場合

直感的には、「その年に簡易課税が使えないなら、前に出した選択届出書の効力も切れたのでは」と思いたくなります。

結論:使えない年があっても、届出書の効力は自動で消えない

ここが大事なところですが、簡易課税制度選択届出書は、上記のような事情があっても自動的には消えません

つまり、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた年は、その年について簡易課税を適用できません。しかし、それは「その年に使えない」というだけであって、過去に出した選択届出書そのものの効力が当然に失われるわけではありません。

また、いったん基準期間の課税売上高が1,000万円以下となって免税事業者になった場合も同じです。その期間については課税事業者でないため簡易課税を使う場面がありませんが、それでも届出書が自動消滅するわけではありません。

この点は、制度の建付けを素直に考えると分かりやすいです。簡易課税制度選択届出書は、「今後、要件を満たす課税期間について簡易課税を選ぶ」という届出です。使えない年があったからといって、選択自体がなかったことになるわけではありません。

だから、後でまた簡易課税が復活することがある

では、その後どうなるか。もし後の課税期間で、基準期間における課税売上高が1,000万円を超え、かつ5,000万円以下になった場合、その課税期間の初日の前日までに簡易課税制度選択不適用届出書を出していなければ、原則として再び簡易課税が適用されます

ここが実務上かなり重要です。
「久しぶりに基準期間における課税売上高が1,000万円を超えた。今年は原則課税か」と考えていると、実は昔の簡易課税制度選択届出書の効力が発動していて、申告を誤る。ということが起こり得ます。

たとえば、ある法人が数年前に簡易課税制度選択届出書を提出していたとします。ある年は売上が大きくなり、基準期間売上高が5,000万円を超えたため、その年だけ簡易課税を使えなかった。さらに次の年は売上が落ちて免税になった。ここで「もう簡易課税の話は終わった」と思い込むと危険です。その後、再び課税事業者となり、しかも基準期間における課税売上高が5,000万円以下なら、簡易課税制度選択届出書の効力が発動します。

「今の数字」だけでなく「昔の届出書」まで見る

この論点の厄介さは、会計データをいくら丁寧に見ても、届出書の履歴を確認しなければ正解にたどり着けない点にあります。自分は、消費税の実務の怖さはここにあると思っています。

法人税や所得税は、その年の取引を積み上げて結論に近づく感覚があります。もちろん、過去の届出書、申請書は確認します。
一方で消費税は、「その年の取引」に加えて、「過去に何を届け出たか」が強く効いてきます。しかも、その届出書が今は使えない状態だったとしても、後でまた効力を持つことがある。この時間差が事故を生みやすいです。

税理士が交代した場合はもちろん、顧問先が「昔出した届出書なんて覚えていない」ということも珍しくありません。だからこそ、消費税では、申告書作成の前に届出書履歴を確認する、という地味な作業がかなり重要になります。
国税職員時代も、届出書の閲覧請求や開示請求の案件は、税目でいえば消費税が多かったように聞いています。

「いま使えない」と「効力が消えた」は別の話

今回の話を一言でまとめると、簡易課税がその年に使えないことと、選択届出書の効力が消えることは別だということです。

選択届出書の効力を消すには、不適用届出書を届け出る必要があります。なお、消費税以外の税目についても、効力を生じさせる事象に手を上げたら、それを辞めるには手を下げなければいけないという建付けになっています。

フラグを立てる、消すみたいなイメージでしょうか。

「いま使えない」と「効力が消えた」を混同すると、後の課税期間で簡易課税が思わぬ形で復活しているのを見落とします。

簡易課税制度選択届出書を一度出した事業者については、基準期間売上高が5,000万円超だった年や、免税事業者だった年があっても、それだけで安心しないようにしましょう。不適用届出書が出ているかどうかまで含めて見て、初めて処理の前提が固まります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました