税務署には、外部からさまざまな情報が入ります。いわゆる「チクり」や投書のようなものです。現場では、部外者からのタレコミを「部タレ」と呼ぶことがあります。
では、そうした情報が来たら、すぐ税務調査になるのかというと、そうではありません。まず見るのは、その内容が税金にどうつながるかです。言い換えると、「その話が本当だとして、申告すべき税額が少なくなっているのか」という点です。
ここが曖昧なままでは、税務署は基本的に動きにくいです。単に「あの会社はけしからん」「あの社長はおかしい」という話だけでは、税務調査の入口にはなりにくいのが実際です。税務署が扱うのは、あくまで税金の問題だからです。
私恨のタレコミでは動きにくい
多くのタレコミには、感情がかなり混ざっています。恨み、妬み、対人トラブルの延長のようなものです。「とにかく調査してほしい」という温度は高くても、中身をみると税金の話としては弱いことが少なくありません。
たとえば、「社長が社員にひどいことをしている」「家族経営で公私混同しているように見える」といった話です。もちろん、それ自体は別の意味で問題かもしれません。ただ、その事実から直ちに税額の過少申告、つまり本来より少ない税金しか申告していないことが導けなければ、税務署としては動く理由が乏しくなります。
税務署は道徳の審判をする場所ではありません。税法に照らして、申告が正しいかどうかを見る組織です。この切り分けは、外から想像されている以上にはっきりしています。
税務署が見るのは「具体性」と「税金への影響」
調査に移る可能性があるのは、情報に具体性がある場合です。特に重要なのは、いつ、いくら、何について、どのように処理されたのかが見えることです。
たとえば、「家族との外食を会議費にしているらしい」という程度では弱いです。しかし、「○月○日に○円の飲食費を会議費で落としている。参加者は家族だけだった。領収書の控えもある」というレベルまで具体化されると、話は変わってきます。さらに、それが一回の話ではなく、継続的に行われている可能性が見えるなら、なおさらです。
要するに、税務署が知りたいのは告発者の感情ではなく、税務上の論点です。そして、その論点を裏づける材料です。内部の人しか知り得ない事実、日付や金額、証ひょう類の一部でもあれば、情報としての重みはかなり増します。
実際に動きやすいのは内部告発に近いものです
経験上、調査に結びつきやすいのは、内部告発に近いタレコミです。社内にいた人、取引の実態を知っている人、帳簿や領収書の流れを見ていた人からの情報です。
こうした情報には、外からは分からない具体性があります。金額、日付、相手先、処理の方法、場合によっては証ひょう類の写しやサンプルまで付いていることがあります。そのレベルになると、税務署としても単なる噂話としては扱いにくくなります。
実際、私が見た事案でも、タレコミの内容が複数あり、そのうち一部については明らかに法人側の不正が確認できたことがありました。ただし、ここで注意したいのは、タレコミがあるからといって、追徴課税が最初から確定しているわけではないということです。情報の中には当たりも外れもありますし、言い分を聞くと別の説明がつくこともあります。私は現場にいたころ、タレコミ案件だから安心という感覚は持てませんでした。
タレコミをする側が知っておいたほうがよいこと
逆に、「これは明らかにおかしいので税務署に伝えたい」と考える側にも、知っておいたほうがよいことがあります。役に立つのは、怒りの強さではなく、客観的な資料です。
不正のもとになっていると思われる書類、日付や金額が分かる資料、処理の実態が伝わるメモなどがあると、情報としての価値は高まります。税務署の中で正式な告発窓口として整理されているわけではありませんが、所轄税務署では総務課がいったん受けることがあります。
もっとも、情報提供をしたからといって、その後どう扱われたかが教えられるわけではありません。税務調査に入ったかどうか、何が見つかったかといった点は、通常は分かりません。
タレコミと税務調査の関係において重要なのは、「怪しい」という印象ではなく、「税額にどう影響するか」と「それを裏づける具体性があるか」です。この二つが揃って初めて、税務署の中で調査の検討対象になりやすくなります。

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