AIで税理士業はどう変わる?ポーターの「5つの力」で整理してみた

税理士独立

AIが広まると、税理士の仕事はどう変わるのか。漠然と考えていても答えが出ないので、経営戦略論の枠組みを借りて整理してみました。使ったのは、マイケル・ポーターの「5つの力」です。

そもそも「5つの力」とは何か

ポーターは米国ハーバード・ビジネス・スクールの経営学者で、1979年の論文でこの枠組みを示しました。経営戦略論の中でも、特によく知られた考え方です。

ある業界がどれだけ儲かりやすいかは、同業者との競争だけでは決まりません。周りからかかる5つの力の強さで決まる、という考え方です。

5つの力とは、

・同業者との競争
・新しく参入してくる者の脅威
・代わりになる商品やサービスの脅威
・買い手(顧客)の交渉力
・売り手(仕入先)の交渉力

です。どの力も、強いほど業界の利益は削られます。

なお、これは本来、個々の会社ではなく業界全体を見る道具です。そこで、まず税理士業界全体で力の変化を見て、そのあとでひとり税理士の戦略に引き直します。

AIの前と後で、5つの力はどう動くか

AI普及の前と後で、それぞれの力がどう変わるかを表にまとめました。

力AI普及前AI普及後
同業者との競争紹介や地域のつながりが中心で、料金はおおむね横並び作業時間が縮み、記帳や申告の料金に値下げ圧力
新規参入の脅威資格に加え、開業後も人手と顧客の確保に時間がかかる資格は引き続き必要だが、一人で回せる顧客が増え、開業しやすくなる
代わりになるものの脅威会計ソフトで自力申告はできても、手間と不安から税理士に頼む人が多くいるAIが仕訳を提案、質問にも即答し、単純な申告なら不要と考える人が増加
顧客の交渉力知識の差が大きく、料金の妥当性を比べにくい状態AIで相場や論点を事前に調べられることが可能となり、「AIでできる部分には払わない」と言いやすくなる
売り手(仕入先)の交渉力売り手は会計ソフト会社や人材で、ソフトの乗り換えも比較的容易クラウド会計やAIへの依存が深まり、料金改定や仕様変更を受け入れるしかない立場になりやすい

並べると、5つのうち少なくとも4つが業界に不利な方向へ動きます。業界全体の平均的な儲けやすさは下がるというのが素直な読み方です。開業して一年ほどの身としては、あまり見たくない結果です。

下がるのは「作業」の値段

ただ、すべてが同じように下がるわけではありません。

税理士法は、税務代理、税務書類の作成、税務相談を税理士の業務と定め、税理士でない者がこれを業として行うことを禁じています。この点はAIが普及しても変わりません。

もっとも、この規定は本人が自分で申告することまでは妨げません。AIを使った自力申告の広がりは、法律では止められません。

そのうえで、AIは判断の責任を負えません。どの処理を選ぶかを決め、その結果に責任を持つのは人です。税務調査の立会いも、AIには代われません。

作業の価値は下がり、判断と責任の価値は残る。多くの場合、業界の中はそう分かれていくと考えています。

ひとり税理士は何で勝負するか

ポーターは、基本の戦略として三つを挙げています。安さで勝つ、他と違う価値で勝つ、狭い分野に絞る、の三つです。

安さで勝つ戦略は、ひとり税理士には向かないと考えます。AIで作業が安くなるのは、大きな事務所も同じです。規模で勝る相手と値下げで争っても、多くの場合は消耗するだけです。現実的なのは、残りの二つの組み合わせです。

まず、料金の根拠を作業量から判断と責任へ移すことです。記帳の手間で料金を説明していると、「その手間はAIで減りますよね」と言われたときに返す言葉がありません。判断に責任を持つこと、調査に立ち会うことに値段をつける形へ組み替える必要があります。

次に、AIを自分の道具として使い切ることです。作業の時間を減らし、空いた時間を相談や判断に回します。

そして、自分にしか言えないことを狭く深く打ち出すことです。私の場合は、国税での経験がこれにあたります。AIの答えは一般論にとどまりやすく、調査の現場でどう見られるかには答えにくいものです。ここは他と違う価値になり得ます。

この分析の限界

5つの力は業界の平均を見る道具です。米国企業を対象にした研究では、利益の差は、属する業界より個々の事業の違いで説明される部分が大きいと報告されています。サービス業では業界の影響が比較的大きく出たとする研究もあり、一概には言えません。それでも、業界の魅力が下がることと、個々の事務所が苦しくなることは別の話です。

また、5つの力はAIを脅威の側で捉えやすい枠組みです。AIで自力申告が増えれば、誤りの訂正や調査対応の相談は、かえって増えるかもしれません。こうした需要は、この枠組みの外で考える必要があります。

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