令和8年4月1日から、会社が役員・従業員に支給する食事の非課税限度額が、月3,500円から月7,500円に引き上げられました。国税庁が令和8年3月31日付の通達改正(所得税基本通達36-38の2の一部改正)で正式に定めたものです。昭和59年の制定以来、約40年ぶりの見直しとなります。給与計算や源泉徴収を担当されている方、個人事業主の方は、今月支給分から取扱いが変わります。
そもそも「法律」ではなく「通達」の改正である
今回の改正で最初に押さえておきたいのは、これが所得税法そのものの改正ではなく、国税庁が発する通達(税務職員向けの解釈指針)の改正であるという点です。
所得税法36条は、金銭以外のかたちで受けた経済的利益も給与所得に含まれると定めています。弁当や社員食堂の食事を会社が負担して提供した場合、本来であれば全額が給与課税の対象になります。ただし実費弁償的な性格があるため、一定の条件を満たす食事支給は課税しない、という運用上の取り扱いが通達(所得税基本通達36-38の2)で定められてきました。
今回改正されたのは、この通達に書かれている金額の部分です。根拠となる所得税法そのものは動いていません。新しい7,500円という上限は、令和8年4月1日以後に支給する食事から適用されます。
非課税となる条件は2つ。ただし「現物支給」が大前提
通達36-38の2に基づく非課税の条件は、次の2つを両方満たすことです。
第一に、役員または従業員が、食事の価額の50%以上を自己負担していること。第二に、会社の負担額(食事の価額から本人負担額を引いた残額)が、1か月あたり7,500円以下であること。この判定は消費税抜きの金額で行います。
そしてもうひとつ、極めて重要なのが「現物支給が前提」という点です。会社が弁当業者や飲食店に直接代金を支払って食事そのものを渡す場合は対象になりますが、従業員に現金で食事手当を支給する場合は、この通達の適用はありません。金額の多寡にかかわらず、支給額の全額が給与として課税されます。社員が自分で食事を買って、あとから会社が現金で精算する方式も同様の扱いです。
「食事手当」という名目で毎月現金を振り込んでいる会社が、今回の改正で非課税枠が広がったと誤解するケースが出てきそうです。ここは変わっていません。
残業・宿日直時の食事は別ルート
非課税になる食事支給には、もうひとつ別系統の規定があります。残業または宿直・日直をした従業員に対して、その勤務に伴って支給される食事は、通達36-24によって全額非課税とされています。
こちらは50%負担のルールも月額上限もありません。通常の勤務時間外に働いた人へ食事を出す場合は、別枠と考えて差し支えありません。実務上、昼食支給(36-38の2)と残業食支給(36-24)は分けて管理するのが一般的です。
私が国税職員として源泉所得税の調査を担当していた頃、食事関係の経済的利益は定番の確認項目でした。現金支給で処理されていないか、半額負担が守られているか等を見ていました。現金支給と現物支給の線引きは、今後も調査の論点として残り続けると思います。
個人事業主と専従者の扱いは慎重に
個人事業主と専従者(青色事業専従者など家族従業員)だけで事業を営んでいる場合、食事補助を福利厚生費として必要経費に算入することは、実務上認められないのが一般的な見解です。
理由は、そもそも福利厚生費という費目が「従業員の福祉のための支出」を前提にしており、事業主と生計を一にする家族への支給は家計内のやりくりと区別がつきにくいためです。専従者と食事会を開いても、家族の食事と実質的に変わらないと判断されます。
家族以外の従業員を1人でも雇用している場合は、その従業員を対象とした福利厚生制度のなかに専従者も含めることができます。この場合に限り、専従者への食事支給も福利厚生費として扱える余地が出てきます。
事業主本人の食事代は、どのような形であっても経費になりません。所得税法56条は、事業主と生計を一にする親族への対価の支払いに一定の制限を設けており、この考え方の延長として、本人の生活費に属する食事代は必要経費から除かれます。

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