国税の世界には、なかなか言語化されることのない「暗黙の了解」がいくつか存在します。その一つが「普通科」と「専科」の関係です。表立って議論されることは少なく、現場でも「聞かないのがマナー」とされる風潮があります。だからこそ、今回はあえて記事として書いてみようと思います。
普通科と専科って何?
国税の職場には、高卒・専門卒で採用される「普通科」と、大卒で採用される「専科」という二つのルートがあります。それぞれ、税務職員として採用されると「普通科〇〇期」「専科〇〇期」といった形で期別に管理されます。
この二つの違いは、研修期間の長さに顕著に表れます。
研修期間 | 特徴 | |
---|---|---|
普通科 | 約1年間 | しっかり基礎教育を受け、税務署に配属される |
専科 | 約3か月 | 研修が終わるとすぐに現場へ |
普通科の職員は1年間の研修を経て配属されるため、「基礎からじっくり学んでいる」という自負を持つことが多いです。一方、専科は「研修が終わったら即現場」というスパルタ方式。「大卒=ある程度の知識がある」という前提で扱われますが、実際のところ、3か月の研修で税務署の仕事が完璧に理解できるわけがありません。
研修のリアル──普通科は体育会系、専科は…?
普通科の研修は、規律と団体行動が重視される、いわば体育会系の環境です。班別講義、寮での自習、そして共同生活──まさに「公務員らしさ」を叩き込まれる場と言えるでしょう。研修期間が長いため同期同士の絆も強く、卒業後も「普通科〇〇期」としてのつながりが続くことが多いです。
一方、専科の研修は3か月しかないため、そうした一体感はあまり生まれません。学ぶ内容も圧縮されており、「とりあえず必要な知識を詰め込む」感が強いです。同期のつながりも普通科ほど強くなく、卒業後は自然とバラバラになりがちです。
普通科 vs. 専科──実は意識していない?
「普通科と専科は仲が悪いのか?」という疑問を持つ人もいますが、実際には「どっちがどっちかを気にする機会がほとんどない」というのが本当のところです。
税務署では「お前、普通科?専科?」と聞く文化がそもそもあまりありません。仕事に必要な情報ではないため、わざわざ聞くこともないのです。とはいえ、職員同士の間には「この話題にはあまり触れない方がいい」という暗黙の了解もあります。
なぜかというと、普通科と専科、それぞれに微妙なプライドがあるからです。
- 普通科:「1年間みっちり研修を受けて現場に出ている」という自負
- 専科:「大卒として即戦力扱い(されることになっている)」という建前
特に、昔は普通科出身者の方が圧倒的に多かったため、専科出身者は少数派でした。最近は事情が変わりつつありますが、それでも「自分が普通科なのか専科なのかを公にすることには慎重になる」という文化は残っています。
3期会──普通科と専科、それぞれの若手の集まり
そんな普通科と専科の違いがもう少しはっきり見えるのが「3期会」です。
3期会とは、主に社会人1~3年目の職員が集まる飲み会のこと。同期同士の親睦を深める場として開かれることが多く、仕事の愚痴から先輩の評判まで、ざっくばらんな話が飛び交います。
ここで面白いのは、普通科と専科が基本的に別々に3期会を開催することです。普通科は普通科、専科は専科で集まり、それぞれの「同期」の輪を作るのが一般的。研修期間の長さや環境の違いが、そのまま同期意識の違いにも反映されているのかもしれません。
「年齢の谷間」が生まれる税務署の構造
近年、多くの税務署では「若手(20代)」と「ベテラン(50代以上)」が目立ち、30代・40代の職員が少ないという年齢の谷間問題が生じています。
この現象の一因として、専科出身の職員が30代・40代になる頃には、庁や局へ異動してしまうことが挙げられます。その結果、現場には「普通科の叩き上げ組」と「新しく入ってきた若手」が主力となり、間の層がごっそり抜けてしまうのです。
変わるもの、変わらないもの
普通科と専科。研修期間の長さも違えば、文化も違います。かつては普通科が多数派でしたが、最近は専科出身者も増えてきました。それでも、税務署の現場では「普通科か専科か」よりも、「仕事ができるか」の方がはるかに重要視されます。
それなら、そもそも普通科と専科の違いにこだわる必要はあるのでしょうか? あるいは、この違いは、税務署という組織にとってまだ意味を持つものなのでしょうか?
これから税務職員を目指す人、そして現役の職員の方々は、どう感じるでしょうか。
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