決算の作業中に、過去から積み上がった帳簿のズレが見つかることがあります。たとえば、資産に計上していた保険料の取り崩しが、何年も前の解約のときに漏れていた。その分だけ残高が実際より多い状態で、毎期そのまま繰り越されてきた、というような場合です。
見つかった以上、残高は落とさなければなりません。問題は、その落とした金額を当期の費用として扱ってよいのかどうかです。
原則として、当期の損金ではありません
法人税は事業年度ごとに区切って所得を計算します。損金の額に算入できるのは、その事業年度に帰属する費用です。過年度に帰属する費用を、見つかった年度でまとめて落とす理由は、原則としてありません。
会計には前期損益修正損という科目があり、当期の費用として処理されることがあります。ただ、科目名を変えても損金になるかどうかは変わりません。原則どおりに考えれば、別表四で加算することになります。実務で「雑損失で落としましょう」と言われる場面は多いのですが、それは会計上の話であって、税務上の結論とは別物です。
本来の筋は更正の請求
では、その期に払いすぎた税金はどうなるのか。帰属する事業年度が特定できていて、その申告期限から5年を経過していなければ、更正の請求という手段があります。過年度の申告をやり直し、その期の所得を減らす。原理原則としては、これが正しい処理です。
その事業年度が赤字だった場合は、期間の扱いが変わります。欠損金額を増やす方向の請求であれば、5年ではなく10年以内まで認められます。平成30年4月1日より前に開始した事業年度については9年です。ただし、これはあくまで欠損金額を増やす場合の話です。所得が出ていた年度の税額を取り戻す請求は、前後に赤字の年度が挟まっていても5年のままです。
そしてもう一点。欠損金額が増えても、繰越控除の期間内に使いきれなければ税額は動きません。10年という数字だけを見て遡れると考えると、手間をかけた末に何も戻らないことになります。実際に効果があるかどうかは、その後の各期の所得の状況次第です。
ただ、実務でこの方法が選ばれることは多くありません。1件あたりの金額が小さいこと、遡って当時の資料を揃える手間が大きいこと、更正の請求には税務署側の確認作業が伴うこと。数十万円のために過年度の申告書を開け直すかというと、割に合わないという判断になりがちです。
調査する側から見ると、景色が変わります
ここで視点を変えてみます。調査でこの処理を見つけたとき、調査官はどう考えるか。
帰属する期が5年以内であれば、これは要するに期ズレです。当期を否認して加算しても、納税者側は過年度について更正の請求ができます。全体で見れば税収は動きません。手間の割に実益が乏しいため、細かい金額であれば指摘まで至らないことも多いのではないかと思います。
一方、すでに5年を過ぎた期の費用であれば話が違います。納税者はもう取り戻せません。当期で加算すれば、その分がそのまま所得の増加になります。調査する側にとっては、指摘する意味がはっきりある論点です。
同じ「過年度の費用」でも、時効の内側か外側かで、指摘される可能性も、指摘されたときの痛みも変わります。
帰属する期が分からないとき
厄介なのは、いつ発生したズレなのか特定できない場合です。何年も前の解約に紐づくらしいが、当時の補助元帳が手元にない。この状態では、更正の請求をしようにも、どの期に対して請求すべきかが決まりません。
ここは私も迷います。原則を貫くなら加算です。しかし帰属期が分からないということは、それが5年以内なのか外なのかも分かっていないということです。分からないものを、自分から不利な側に確定させる必要があるのかという考え方もできます。
一方で、損金だと主張する側に一定の説明責任があるのも事実です。「分からないので当期で落としました」は、突き詰めると説明になっていません。
どこまで厳密にやるかは、事務所の方針の問題
理屈の上では答えははっきりしています。過年度の費用は当期の損金の額に算入されない。5年以内なら更正の請求、5年を過ぎていれば別表四で加算。それだけの話です。
それでも実務が割れるのは、原則どおりにやるコストが、金額に見合わないことがあるからです。数十万円の税効果のために、過年度の元帳を遡り、更正の請求を組み立て、その説明を関与先にする。そこまでの手間をかけるかどうかは、事務所ごとの方針であり、担当者ひとりで決めてよいことではないと思います。
