日経新聞が「隠れ増税」に関する記事を出していました。物価高と賃上げが重なった結果、明確な増税の決定がないまま国民の税負担が増えている、という内容です。
第一生命系の研究所の試算によると、低インフレだったコロナ危機前と比べて、2025年の家計の税負担は年2兆円ほど増えたとされています。法律で「増税します」と決めたわけではありません。それでも負担が増える。所謂「ステルス増税」といわれるものです。
なぜこうなるのか。理由は、税金の計算の基準になる金額が、物価に合わせて見直されていないからです。
一番影響が大きいのは「税率区分の据え置き」
所得税は、収入が多い人ほど高い税率がかかる仕組みです(累進課税)。5%から45%まで、7段階に分かれています。
ここで問題になるのが、それぞれの段階の区切りとなる収入額です。この区切りが何年も同じ金額のまま据え置かれています。
物価が上がれば、名目上の給与も上がります。すると、実質的な生活水準は変わっていないのに、一つ上の税率区分に移ってしまう人が出てきます。給与の額面は増えたのに、より高い税率がかかるようになり、手取りが思ったほど伸びない。この現象は「ブラケットクリープ」と呼ばれます。ブラケットは税率区分、クリープは「じわじわ忍び寄る」という意味です。区分の方が動かないので、給与の側が押し上げられて、いつの間にか上の区分に滑り込んでしまう。記事の試算では、2025年までに820万人ほどが一つ上の区分に移ったとみられるとのことでした。
記事によると、この税率区分の据え置きだけで、国民全体で約0.98兆円の負担増になっていたそうです。
給与所得控除と住民税の基礎控除も未調整
負担増の要因は税率区分だけではありません。
会社員には「給与所得控除」という、収入から自動的に差し引かれる枠があります。政府は「年収の壁」対策として、所得税がかかり始める最低ラインは引き上げました。ただ、それより上の収入帯にかかる控除の基準や上限額は調整していません。記事ではこの未調整分で約0.69兆円の実質増税が生じたとしています。
加えて、住民税の基礎控除を据え置いている分で約0.25兆円。3つを合計すると、2025年時点で年1.92兆円ほど負担が膨らんでいた計算になります。
なお、2026年度の税制改正では中所得層まで基礎控除を引き上げ、所得税を約7000億円減税することが決まっています。基礎控除の一部と給与所得控除の最低保障については、物価の伸びに沿って2年に1回のペースで見直すことも決まりました。一定の対応は始まっています。それでも、税率区分そのものの調整には踏み込んでいません。
国によって対応は分かれている
物価に合わせた調整をするかどうかは、国によって判断が分かれます。米国やカナダは税率区分の基準を毎年引き上げています。一方、英国は財政健全化を優先して、あえて凍結する方針を表明しています。
日本は、と言うと、「中長期的な課題」と位置づけてはいるものの、具体的な動きは見えていません。凍結すると明言しているわけでもなく、調整すると決めたわけでもない。意図がはっきりしない、というのが現状のようです。
税理士として感じること
増税の法案が国会に出れば、ニュースになります。ところが、基準を「据え置く」という不作為は、決定として目立ちません。何もしていないのですから、報道もされにくい。気づかないうちに負担だけが増えていく。この見えにくさこそが、本来一番注意すべきところだと感じました。
自分の税負担がどういう理屈で決まっているのか。それを知っているかどうかで、打てる手の数は変わってきます。少なくとも、ご自身が今どの税率区分にいて、その区切りがいくらなのかは、一度確認してみる価値があると思います。

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