中小企業のオーナーが亡くなると、その人が持っていた自社の株にも相続税がかかります。
いま、この株の値段の決め方を大きく変える議論が進んでいます。
9月16日には、経済産業省と中小企業庁が、見直しに慎重な意見書を公表しました。
上場していない会社の株には値段がない
上場企業の株なら、取引所の株価がそのまま値段になります。
一方、上場していない会社の株には、売り買いする市場がありません。
税の世界では、これを「取引相場のない株式」と呼びます。
それでも相続や贈与があれば、税金を計算するために値付けをする必要があります。
その計算方法は、国税庁の「財産評価基本通達」という内部ルールで決められています。
現在は、会社を規模で大・中・小に分けた上で、主に二つの方法を組み合わせます。
一つは、同じ業種の上場企業と、配当・利益・純資産を比べて計算する方法(類似業種比準方式)です。
もう一つは、会社の財産から負債を引いた「正味の財産」で計算する方法(純資産価額方式)です。
一般に、会社の規模が大きいほど前者の比重が高くなります。
きっかけは会計検査院の指摘
問題を指摘したのは会計検査院です。
令和5年度決算検査報告(2024年11月公表)で、上場企業と比べる方法では、規模の大きい会社ほど評価額が相対的に低く出る傾向があるとしました。
国税庁の側には、もう一つ問題意識があります。
計算方法の違いを利用して、株の評価額を意図的に下げる手法が使われていることです。
たとえば、グループ会社の間で資産を動かして、会社の規模区分を変えるといったものです。
これを受けて、国税庁は2026年4月20日に有識者会議を立ち上げました。
税理士会の代表や大学教授などが委員となり、議論が続いています。
国税庁が示した「たたき台」
8月20日の第5回会議で、国税庁は見直しの方向性を初めて具体的に示しました。
柱は三つです。
一つ目は、会社の規模による区分をやめ、共通の方法で評価することです。
二つ目は、上場企業と比べる方法について、理論的な裏付けに乏しく、残すのは難しいとしたことです。
三つ目は、会社の稼ぐ力を重視した方法を評価の軸にすることです。
その具体例として示されたのが「残余利益方式」です。
帳簿上の純資産に、通常期待される水準を上回る利益を何年分か上乗せする考え方です。
経産省の意見書は、この上乗せを「直近5年程度の超過収益」と説明しています。
ただし、資料上は「仮に採用した場合のイメージ」という位置づけで、決定ではありません。
報道では、令和9年度税制改正の手続きを経て、早ければ2028年1月から新しい方法になる見通しとされています。
経産省・中小企業庁の意見書
これに対して出されたのが、第6回会合と同じ9月16日付の、経産省・中小企業庁の意見書です。
中心にある懸念は、評価額が大きく上がる会社が出てくることです。
資産規模の大きい企業や収益性が高い企業ほど現行の評価方式に比べ評価額が著しく増大することが見込まれている。
株の値段が上がっても、後継者の手元に現金が増えるわけではありません。
相続や贈与で株式を引き継いだ経営者は、事業継続の前提となる経営権を保持するために株式の保有を継続する必要があり、換金することができない中で、後継者個人に現金での納税負担が発生するものであるということに留意すべきである。
国税庁の影響分析についても、規模別の中央値を示すにとどまるとして、こう述べています。
企業への影響の程度はこれだけでは全く不十分である。
さらに、稼ぐほど承継時の負担が増えるなら、経営者が成長のための投資を控えるおそれがあるとし、政府の政策方針に逆行すると指摘しています。
また、国税庁が確認した評価額圧縮のスキームは過去10年間で14件とされています。
意見書は、まず現行の方法の枠内で対応できないかを検討する余地がある、としています。
「評価」と「負担」は分けて考えられるのか
意見書によれば、会議では「評価と負担は別の問題で、負担は税制で対応すればよい」という考え方も示されているそうです。
受け皿として想定されるのは、一定の要件のもとで相続税などの納税を猶予する「事業承継税制」です。
これに対し意見書は、中堅企業はこの制度の対象外で、中小企業でも長期の管理コストなどから使える会社は限られると反論しています。
株の値段は実態に合わせ、政策的な配慮は別の制度で行う。
国税庁のこの整理自体は、筋が通っています。
私自身、国税にいた者として、評価のルールに政策目的を混ぜると理屈が崩れやすいという感覚はなんとなく分かります。
ただ、受け皿の制度が実際に使えるかを確かめないまま評価だけを先に変えるのは、順番として無理があるのではないかとも感じました。
今後は、有識者会議の取りまとめと、年末に公表される税制改正大綱にどう反映されるかが焦点になりそうです。
