KSK2の幻想と現実――元国税職員から見た新システム移行

国税職員

国税庁の基幹システムである「KSK(国税総合管理システム)」が、令和8年9月24日(木)に「KSK2」へ移行します。現行のKSKは2001年から稼働しており、約25年ぶりの全面刷新です。

国税庁が掲げる目標は3つあります。書面中心からデータ中心の事務処理への移行、税目別・事務系統別データベースの統合、そして独自の大型コンピュータからオープンなシステムへの刷新です。要するに、紙の処理をやめ、縦割りをやめ、古い機械から新しい基盤に乗り換えるということです。

これに合わせて、AI-OCR(手書き文字を機械学習で読み取る仕組み)に対応した申告書の新様式も順次公開されています。

移行に伴うe-Taxの停止期間

実務上、まず押さえておきたいのは、移行作業に伴うe-Taxのメンテナンス時間です。国税庁の予定では、以下の期間はe-Taxが利用できなくなります。

  • 令和8年9月19日(土)0時 ~ 令和8年9月24日(木)8時30分
  • 令和8年9月26日(土)0時 ~ 24時

特に7月決算法人は9月30日が申告期限です。9月19日から24日朝までの約5日半、e-Taxが止まる影響は無視できません。電子申告を予定している場合は、9月19日より前に送信を済ませるか、9月24日昼以降に送信するか、書面提出に切り替えるかの判断が必要になります。

3月決算の中間申告(11月末期限)や、他の月次の納付手続なども、9月後半に集中するものは前倒しを検討したほうが無難かと思います。

「KSK2で全てが変わる」という魔法の杖信仰

ここから先は私の主観も混ざります。

国税内部にいた頃、KSK2への期待は相当に大きいものでした。「データが横串で見られるようになれば、これまで見えなかった矛盾が一気に炙り出される」「申告書はAIで自動チェックされる」――そういった話が、内部のあちこちで聞こえていたように記憶しています。要するに、KSK2で全てが良い方向に変わる、という幻想が先行していたように思うのです。

世間でも同じことが起きています。「無申告者がAIで一発で見つかる」「過少申告は逃げられない」といった話が広がり、納税者を相応にビビらせています。

ただ、よく公式情報を読むと、国税庁はKSK2について「AI-OCR」「データの一元管理」「外部からのアクセス」といった言葉は使っていますが、「AIによる調査対象選定システム」そのものはKSK2の3つの目標には明示されていません。AIによる選定システム(SAT・結・RIN)は、KSK2とは別の取り組みとして従前から運用されているものです。

期待先行と実態のずれ

私が思い出すのは、電子帳簿保存法の保存要件をめぐる議論です。導入当初は「要件を満たさないと青色申告が取り消される」と相当に騒がれましたが、実際の運用では、滅多なことでは青色取消にはなりません。要件は段階的に緩和され、宥恕措置も入り、結果として骨抜きと評される状態に近づいています。

令和8年度改正で創設されるグループ内取引に係る書類保存制度も、個人的には同じ道をたどるのではないかと見ています。

KSK2についても、世間が想像しているほど劇的な変化はすぐには起きないかもしれません。一部機能のリリースは令和8年10月以降にずれ込むことも公表されています。「9月24日に突然すべてが変わる」というよりは、数ヶ月から1年かけて徐々に動いていくと考えるのが妥当です。

ロビイングとしての成功

とはいえ、納税者にプレッシャーをかけるという意味では、KSK2は既に十分に役目を果たしているのかもしれません。「AIで見られているらしい」という空気が広がれば、申告の精度は自然と上がります。実際の検出能力がどうあれ、納税者が真面目に申告するようになれば、徴収側としては成功なのかもしれません。

一方で、納税者の側からすると、AIによる調査対象選定の中身が非公開であり、選ばれた理由を知る手段もなく、不服を申し立てる手続も整っていない、という別の問題が残ります。アメリカのIRSが今年2月に「AIガバナンス・ポリシー」を制定し、AI選定に対する不服申立てを認める方向に動いたのと比べると、日本の制度整備は明らかに遅れています。

この点は、KSK2への移行とは別に、税理士会などが声を上げていくべき論点だと感じています。

当面の実務対応

実務担当者として優先すべきは、まずe-Tax停止期間への対応です。9月決算・7月決算法人の関与先がある方は、関与先への周知も含めて、夏のうちにスケジュールを組み直しておくのが安全です。

申告書の様式変更にも順次対応が必要ですが、こちらは新様式が公開され次第、ソフトベンダーの更新に合わせて切り替えていけば大きな問題は起きないはずです。

KSK2そのものに過剰に身構える必要はありませんが、移行作業に伴う実務上の混乱には備えておく、というのが現時点の落としどころだと考えています。

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