通達どおりに計算しても否認されることがある――「総則6項」について

相続・財産評価

台風が近づいていて、今日は外に出る予定を入れていません。トルネコのリマスターもそこそこにして、机に向かう時間にあてることにしました。

テーマは相続税の「総則6項」です。国税にいた頃、私は相続税や事業承継の分野には携わっていませんでした。昨日は取引相場のない株式の評価見直しについて書きましたが、その議論とも無関係ではありません。制度の仕組みと最近の流れを整理します。

相続税の「時価」は、実務上は通達で決まる

相続税は、受け継いだ財産の「時価」に対してかかります(相続税法第22条)。

ただ、法律には時価の計算方法までは書かれていません。土地や上場していない会社の株には、決まった値段がないからです。

昨日の記事においても言及しましたが、このような場合「財産評価基本通達」という内部ルールを定めています。土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基に計算する、といった具合です。通達は法律ではなく、本来は税務署の職員に向けた指示(法令解釈通達)です。それでも実際には、納税者も税理士もこの通達に沿って申告しています。

総則6項は「通達の例外」を定めた一文

この通達の総則6項に、次の一文があります。

この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

通達どおりに計算した結果が明らかにおかしい場合は、別の方法で評価するという意味です。

一般に、通達による評価額は市場価格より低めに出ます。多くの場合、その差が問題になることはありません。ただ、この差を意図的に使って税負担を大きく減らすと話が変わってきます。

難しいのは、どこからが「著しく不適当」なのかが通達に書かれていないことです。納税者から見ると、通達に従ったのに後から否認される可能性が残ります。

令和4年の最高裁判決が示した線引き

この点について、令和4年4月19日に最高裁の判断が出ました。

被相続人は90歳と91歳のときに、マンション2物件を合計約13億8700万円で購入しました。資金の大半は借入れです。約3年後に亡くなり、相続人は通達に基づいて2物件を約3億3000万円と評価しました。借入金を差し引いた結果、申告した相続税は0円でした。

税務署は不動産鑑定を基に、2物件を約12億7300万円と評価し直しました。最高裁はこの処分を適法としています。

判決の考え方は、おおむね次のとおりです。通達は法令ではない。ただ、通達で一律に評価している以上、特定の人だけ別の方法で評価するのは、原則として平等に反する。例外は、通達どおりに評価するとかえって他の納税者との公平に反する事情がある場合である。

最高裁は、通達による評価額と鑑定による評価額に乖離があるだけでは、この事情にあたらないとしました。そのうえで、税負担を減らす意図で購入と借入れを行い、実際に税額が大きく減った点を重く見ています。

最近は「個別対応」から「ルール化」へ

その後の裁判は、結論が分かれています。

非上場株式について、令和6年には東京地裁と東京高裁が総則6項の適用を認めず、納税者が勝訴しました。一方、別の事案では令和7年6月に東京高裁が一審を覆し、納税者が敗訴しています。いずれも最高裁の枠組みを前提に、個々の事実関係で結論が分かれた形です。

こうした中で、総則6項を多用すると納税者の予測可能性を害すという批判も出ていました。そのため最近は、通達そのものを改める動きが続いています。

令和8年度税制改正大綱では、相続開始前5年以内に取得した一定の貸付用不動産について、通常の取引価額を基に評価する方針が示されました。不動産小口化商品は、取得時期を問わず同様の扱いです。令和9年1月1日以後の相続・贈与から適用される予定です。

昨日取り上げた取引相場のない株式の見直しでも、評価額を意図的に下げる手法への対応が論点の一つになっています。個別に総則6項で是正するより、評価方法そのものを見直す。方向としては同じ流れの中にあります。

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