真正面から聞くべきでないこと

世の中、「わからないことは聞くべき」というのが基本スタンスです。知らないままで失敗するより、誰かに聞いて道を切り開く方が建設的ですし、問題解決の近道になります。特に、聞く相手を間違えなければ尚更そう思います。

ちなみに「聞く相手を間違えている」については、以前書いた記事を参照してください。

聞く相手を間違えている

しかしながら、何事もバカ正直に真正面から話を切り出せばいい、というわけではないように思えます。むしろ、真正面から聞くことがかえって不利益をもたらすケースも存在します。今回は、特に税務を例に取りながら、「真正面から聞くことのリスク」について語っていきます。

税務職員に「アンチA」を相談するとどうなるか

例えばこんなケースを考えてみましょう。あなたは会社の経理担当で、税務に関する悩みを抱えているとします。法令上、正しい処理は「A」という方法ですが、実務上は「アンチA(Aと異なる方法)」で処理している人も少なくないようです。他社がアンチAで問題なくやっているのを知り、「自社もアンチAにしたい」と思っています。

ここで税務署に問い合わせてみたらどうでしょうか。答えはシンプルです。「法令上、Aが正しい」という返答をされるだけです。なぜなら、税務職員は法令を超えたアドバイスをすることはできないからです。税務署の立場としては、「ルール通りやってください」という以外の選択肢は存在しません。

では、「アンチA」をしている他社の例をどう捉えればいいのでしょうか?よくある誤解として、以下のような解釈をする人がいます。

  • 「他社がアンチAで税務署に何も言われていない。だからアンチAは認められている。」
  • 「確定申告を期限内に提出したらそれでOKなのと同じで、アンチAも黙認されるだろう。」

しかしこれでは不正確です。税務署が何も言ってこないことは黙認されている理由にはなり得ません。ここまでいくと、事後的にアンチAという行為をどう評価するかという事実認定の問題になるでしょう。事実認定が問題となるのは、主に税務調査の場面とお考えいただければと思います。

真正面から聞くことで選択肢が消える

ここで重要なのは、「真正面から聞くこと自体が、一つの選択肢を潰す結果になる」という点です。仮に税務署にアンチAについて問い合わせた場合、担当した職員によっては履歴を残すでしょう。「この会社はアンチAを前提に動いている」という情報が記録されるかもしれません(実際がどうなのかは内緒ですが思考実験として以下お付き合いください。)。

その後アンチAを実行した場合、税務署側にはすでに「この会社はアンチAについて相談していた」という前提や履歴があるならば、それ相応の対応がなされる可能性はあるでしょう。本来であれば、税務署に認知されない形で行うことができたかもしれない選択肢が、問い合わせを通じて消えてしまうのです。

では、どうすればよいのか?

税理士の立場であれば、クライアントに対して「法令上はAですが、実務上はアンチAもあります」というアプローチができるでしょう。もちろん、このアドバイスにはリスクが伴うため、十分な説明責任を果たす必要があります。また、こうしたリスクを引き受ける以上、それ相応の対価を請求するのが筋です。

一方で、税務署にはこのような「運用上どこまで泳がせているか」的なことを相談することは期待できません。税務署は法令に基づいて動く機関であり、グレーゾーンや暗黙の了解を推奨することは不可能ですし、そもそもそのレベルまで思考を深めることができる職員はいない気がします。

法令と実務の間にある所謂「グレーな選択肢」については、税務署ではなく、税理士や他の専門家に相談するのがいいと思います。一方で、税理士や専門家に限ってこういうことを税務署に問い合わせがちな気もします。

真正面から聞くべきか、そうすべきでないか

ポイントとしてまとめます。

  1. 聞く相手を間違えないことが大前提
    問題を解決するためには正しい相手に相談することが不可欠です。税務署は法令に基づいて話をする場所であり、だれも知らないやり方や慣習についての適切な相談先ではありません。
  2. 真正面から聞くことによるリスク
    相談する前に「本当に聞くべきなのか」を一度立ち止まって思考しましょう。
  3. プロフェッショナルに頼ることの重要性
    税理士や他の専門家に相談することで、リスクを抑えつつ最善の選択肢を探ることができます。彼らは「グレーな選択肢」に対しても柔軟なアドバイスを提供してくれるはずです。

時には「知らぬが仏」

何事も積極的に聞くことが良い結果を生むとは限りません。真正面から聞くことで、「知らなければ選べたかもしれない道」を自ら潰してしまう可能性もあるのです。時には、知らないまま選択肢を手元に留保するという姿勢も、リスク管理の一環かもしれません。問題に向き合うときは、「誰に」「どう」相談するかを慎重に選びたいものです。

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