国税不服審判所は、自らが出した裁決の一部をホームページで公表しています。直近では、令和8年1月分から3月分として7件が公表されました。
その中に、税金の計算ではなく、書類の「届け方」が争われた一件がありました。実務では見落としやすい話なので取り上げます。
そもそも国税不服審判所は何をするところか
税務署の処分に納得できないとき、裁判の前に不服を申し立てる手続があります。入り口は二つです。
一つは「再調査の請求」です。処分をした税務署に、もう一度調べ直してもらう手続です。もう一つは「審査請求」です。国税不服審判所に、処分が正しかったかを判断してもらう手続です。
審判所は国税庁に置かれた機関ですが、税務署とは別の立場で審理する仕組みになっています。どちらの手続から始めるかは、原則として納税者が選べます。再調査の請求をして、その結果になお不服があれば、続けて審査請求に進むこともできます。
期限について、再調査の結果に不服があって審査請求をする場合、決定書の謄本(正式な写し)が届いた日の翌日から1か月以内に申し立てる必要があります(国税通則法77条2項)。
審判所の判断を「裁決」といい、先例として参考になるものが公表されています。
事案のあらまし
請求人は、亡くなったきょうだいの唯一の相続人でした。新型コロナの影響などで相続税の申告が期限に間に合わなかったとして、期限の延長を申請しましたが、税務署はこれを却下しました。
請求人は再調査の請求をし、途中から弁護士を代理人に立てました。提出した税務代理権限証書の書類受領の欄には、「再調査請求にかかる一切の書類」と書かれていました。
再調査の結果は棄却です。その決定書の謄本は、代理人ではなく本人の住所に、特定記録郵便で送られました。特定記録郵便は、差し出した記録は残りますが、受取人の署名はとらず、郵便受けに投函される方式です。
配達記録では、令和7年2月7日に投函済みでした。一方、請求人はその住所に月に2、3回郵便を見に戻る程度だったと主張しています。謄本に気づいたのは翌8日で、審査請求をしたのは3月10日でした。
この1日の差が結論を分けました。2月8日を起点にすると、期限の3月8日が土曜日のため、週明けの3月10日まで延びます。2月7日を起点にすると、期限は3月7日の金曜日です。
二つの「通達どおりでない」点
通達は、法律の解釈や事務の進め方について、国税庁が内部向けに示したルールです。この事案では、送り方が通達に沿っていませんでした。
一つ目は送り先です。不服審査基本通達84-18は、本人に送るのを基本としつつ、代理人を送り先とする書面が出ていれば、原則として代理人に送るとしています。審判所も、この事案では代理人に送るのが事務処理上求められていたと認めています。
二つ目は郵便の種類です。不服審査基本通達84-16は、郵便で送る場合は配達証明郵便や書留郵便によるとしています。審判所も、特定記録郵便による送付は通達に沿わないと述べています。
それでも送達は有効とされた理由
結論として、送達は2月7日にあったとされ、審査請求は期限後の不適法なものとして却下されました。
理由は大きく三つです。まず、送達は、本人が内容を知り得る状態に置かれれば足り、実際に読んだかどうかは問わないとされました。郵便受けに入った時点で足りるという考え方です。
次に、代理人に受け取りを任せても、本人が受け取る権限はなくならないとされました。さらに、国税通則法12条は郵便の種類を書類の重要度で区別しておらず、普通郵便も認めているため、郵便の種類で送達の効力は変わらないとされました。
そのうえで審判所は、送り方が原因で期限を守れない具体的な事情があれば、期限後でも認められる「正当な理由」として考慮する余地がある、と整理しています。本件では、8日に謄本を確認しており時間に余裕があったこと、配達日は郵便局のウェブサイトで確認できたことから、正当な理由は認められませんでした。
通達違反が二つ重なっても結論が変わらない点に、かなり引っかかりを感じる裁決のご紹介でした。
