非OBの税理士さんと雑談していると、「嘆願書を出せば税務当局がお目こぼし的に取り扱ってくれるのか」という話題が出ることがあります。元国税という経歴のせいか、私に対してその実感を尋ねられる場面が少なくありません。今回はこのテーマについて、現時点で私が考えていることを書いておきます。
住宅ローン控除の適用漏れと「更正の嘆願書」
具体例として挙げられるのが、住宅ローン控除の適用漏れです。
住宅ローン控除のような措置法上の特例は、適用する旨の記載と計算明細書の添付が要件とされています。当初申告でこれを失念した場合、後から更正の請求(申告の誤りを正して税額の還付を求める手続き)で適用を求めることはできない、というのが法的な結論です。
これは平成19年2月19日の裁決でも示されています。
ところが、運用上は更正の請求が認められているケースがあります。
たとえば給与所得者で、本来であれば期限後申告で住宅ローン控除を受けられたはずなのに、医療費控除だけで還付申告をしてしまった、という事例です。このようなケースは件数も多く、控除が受けられないことによる税額への影響も大きいため、税務署が後からの適用を認める場合があります。法的には更正の請求ができないので、形式的には「更正の嘆願書」を提出するという手続きになります。
個人課税と法人課税で異なる運用感覚
これについて、納税義務者が個人か法人かで運用のバッファにかなり差があるように感じています。
私は法人課税の畑を歩んできました。先ほどの更正の請求のように、法令に基づく手続きを行っていない事案に対して、陳情や嘆願の類を運用で認めるという話はあまり聞いたことがありません。法令が関与しない領域、たとえば税務調査の過程で「これは期間損益の問題で翌期に治癒されるから修正申告の対象から外してほしい」といった折衝はありますが、それとはまったく別の話です。
更正の請求は法令に基づいた手続きですので、これを運用で広く認めてしまうと、租税法律主義の観点からどうなのか、という疑問が残ります。
一方で、所得税(個人課税)の方では、ある程度運用で泳いでいる実態があるとは聞いていました。ただ、広く認めすぎではないかという印象も正直なところあります。
嘆願という手続きを踏むことのリスク
嘆願書というイレギュラーな手続きを踏むことで、他の申告内容にも厳しい目が向けられる可能性はあるのか。この点は、現職であった私も正直なところよく分かりません。
担当者の心証に影響することは否定できないと思いますが、それが具体的にどの程度、後の調査選定などに反映されるのか。明確に答えられる人は、おそらく組織の中にもそう多くはいないのではないかと思います。
立場が変われば、自分も嘆願書を出すのだろう
ここまで法的な建付けの話をしてきましたが、立場が変わればという話でもあります。
仮に私自身が、クライアントの税務手続き――申請・申告・納付――において法令に即していない誤りをしてしまった場合、おそらく私は嘆願書を出すこともあるだろうと思います。法令に基づかない手続きに頼ることになるので、租税法律主義の観点からは筋が通らないと言われるかもしれません。それでも、クライアントに対して最善を尽くすという意味で、多くの税理士は同じ判断をするのではないでしょうか。
何もしないよりはあがいた方がいい。やらないで後悔するならやって後悔した方がいい。そういう感覚に近いのかもしれません。
ここは正直、自分の中でも整理しきれていない部分です。元国税としての筋論と、実務家としての現実的な対応の間で、どちらが正しいと言い切れない感覚があります。
結局は未然に防ぐことに尽きる
そのように考えていくと、結局のところ、嘆願という事態に至る前に防げることはきちんと防いでおくのが肝要だと思います。
適用漏れが起きやすい論点を把握しておく。当初申告の段階でチェックリストを潰す。クライアントからの情報収集を丁寧に行う。地味な作業の積み重ねですが、嘆願書を書く手間と、それでも認められない可能性を考えれば、未然防止に時間を割く方が合理的です。
嘆願という選択肢があること自体は、納税者保護の観点で意味のあることだと思います。ただ、それを前提にした実務はやはり望ましくない、というのが今の私の感覚です。

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