税賠の事故事例集2026――インボイスで「選び間違い」の種類増加か

税理士独立

税理士職業賠償責任保険の事故事例集が公表されました。税理士のミスで依頼者に損害が出て、保険金が支払われた事例の冊子です。今回の対象は、2025年7月1日から2026年6月30日までに支払われたものです。

気になった事例をいくつか取り上げます。

消費税は、インボイスがらみの事故が目立つ

保険金が支払われた事例は23件載っています。税目別では消費税が7件で最も多く、法人税6件、所得税5件、相続税5件と続きます。

消費税の事故は、もともと多い分野です。届出書の出し忘れや、簡易課税と本則課税の選び間違いが典型でした。

目を引くのは、7件のうち3件がインボイス制度に関係していることです。いずれも「2割特例」が絡んでいます。インボイス登録をきっかけに課税事業者になった小規模事業者は、売上にかかる消費税の2割を納めればよいという期限付きの負担軽減措置です。

3件の中身はそれぞれ違います。1件目は、2割特例を使えたのに検討を忘れ、簡易課税で申告した事例です。2件目は、2年前の売上が1,000万円を超えていて2割特例を使えないのに適用し、しかも簡易課税の届出も出していなかった事例です。3件目は、インボイスの登録申請を出し忘れ、取り戻そうとして課税事業者選択届出書を出したところ、それが原因で2割特例を使えなくなった事例です。

インボイス前は、計算方法の選択肢は多くの場合2つでした。今は2割特例を含めて3つあり、それぞれに使える条件があります。一般に、選択肢が増えれば、間違え方も増えます。事故の種類が広がったのは、そのためだと考えられます。

住宅ローン控除の事例は、損害が毎年積み上がっていた

令和3年10月に認定住宅を取得した依頼者について、税理士は「認定住宅等新築等特別税額控除」で申告しました。住宅の性能を高める費用をもとに、原則として入居した年に税額を差し引く制度です。一方、依頼者には10年以上の住宅ローンがあり、住宅ローン控除を使えました。こちらは毎年、年末のローン残高をもとに控除を受けられます。比べれば、住宅ローン控除が明らかに有利でした。

誤りに気付いたのは、翌年の申告書を作るときです。しかし、そこから住宅ローン控除に切り替えることはできませんでした。

この事例で考えさせられるのは、損害の広がり方です。依頼者は10年間の控除を見込んでいました。そのため損害は、控除を受けられない年が来るたびに増えていきます。最終的には、令和7年5月に住宅を売却したことで損害額が確定しました。令和3年分から令和6年分までの過大納付は約150万円、支払われた保険金は約120万円です。

ミスをした申告は1回です。それでも、影響は4年分に及びました。

選び間違いは、翌年以降に持ち越されます

1回の判断ミスが何年も尾を引く形は、ほかにもあります。

消費税では、一括比例配分方式を一度選ぶと、2年間は続けなければなりません。誤った判断で選んだ結果、翌期も不利な方法で申告せざるを得なかった事例が2件ありました。うち1件は、還付を受けられなかった額が約9,800万円にのぼります。

所得税でも、株の譲渡損失の記載漏れで繰越控除が使えなくなり、3年分で約3,900万円の損害になった事例があります。

申告書の数字の誤りは、多くの場合、その年の修正で片が付きます。一方、どの制度を選ぶか、届出を出すかという判断の誤りは、後から直せないことがあります。今回の事例集を見る限り、金額が大きくなっているのはこちらのほうです。

他社の別表を添付した事例と、e-Taxの事情

5月決算の法人で、賃上げ促進税を使う前提で申告書を作っていました。ところが電子申告の際、別の会社の明細書(別表六(二十四))を添付してしまいました。税務署からの連絡で発覚し、制度は使えませんでした。過大納付は約430万円、保険金は約400万円です。

事例集は原因を確認不足としつつ、背景にも触れています。5月決算法人の申告時期には、すべての別表がe-Taxに対応しているわけではありません。対応していない別表は、PDFなどの画像データか郵送で出す必要があります。令和7年5月期は、この別表がまだ対応していませんでした。

一般に、データで送れる別表は、申告ソフトの中で会社ごとに組み込まれます。PDFで添付する場合は、ファイルを人の手で選びます。複数の会社の申告を同じ時期に処理していれば、取り違える余地が生まれます。

郵送ではなくPDFで出せるようになったのは、ありがたいことです。ただ、私としては、すべての別表を電子データのまま送れるようにしてほしいと感じています。人の手で選ぶ工程が残る限り、同じ取り違えはどこかで起こりうるからです。

もちろん、確認すれば防げたミスであることに変わりはありません。当面は、PDFを添付する前にファイルを開き、法人名まで確かめる。それが現実的な対策になりそうです。

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