令和8年4月付で、国税庁から「簡易簿記による10万円の青色申告特別控除を適用している皆様へ」というパンフレットが公表されました。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kojin_jigyo/0026004-012.pdf
令和9年分以後の所得税から、一部の方について10万円控除が使えなくなるという内容です。
見出しだけを見ると大きな改正に感じられるかもしれませんが、実際に影響を受ける方はかなり限定的です。この記事では、誰が対象になるのか、そして多くの方にとってなぜ影響が小さいのかを整理します。
そもそも何が変わるのか
まず改正の骨子です。
令和9年分以後の所得税について、事業所得または不動産所得がある方で、簡易な簿記(簡易簿記)で記帳している方のうち、2年前の収入金額が1,000万円を超える方は、10万円の青色申告特別控除が使えなくなります。
表にするとこうなります。
| 2年前の収入金額 | 改正前(簡易簿記) | 改正後(簡易簿記) | 改正後(複式簿記+e-Tax) |
|---|---|---|---|
| 1,000万円超 | 10万円 | 0円(控除対象外) | 65万円または75万円 |
| 1,000万円以下 | 10万円 | 10万円 | 65万円または75万円 |
ポイントは、収入が1,000万円以下の方は従来どおり10万円控除を受けられるということです。改正で控除がゼロになるのは、「2年前の収入が1,000万円を超えているのに、今も簡易簿記のままでいる方」に限られます。
実際に影響を受ける方はかなり少ないはずです
ここからが本題です。
収入金額が1,000万円を超える規模の方であれば、そもそも最大65万円の青色申告特別控除を狙わない理由があまりありません。仮に所得税率と住民税率の合計が20%の方であれば、65万円控除と10万円控除の差額55万円に対して、単純計算で約11万円の税負担の差が出ます。国民健康保険料にも影響が及ぶケースがあります。
この規模の事業者の方は、多くの場合すでに会計ソフトで複式簿記の記帳をしており、e-Taxで申告しているはずです。つまり、改正の影響を受ける方は、
- 収入が1,000万円を超えている
- にもかかわらず、あえて簡易簿記のままでいる
という、少し珍しい組み合わせの方ということになります。そこまで絞り込まれると、対象はかなり限られるはずです。
感覚的に、収入1,000万円を超える規模の個人事業者で、今も簡易簿記のまま10万円控除で申告している方はごく一部という印象です。
不動産所得の方はさらに影響が限定的です
不動産所得の方については、もう一段影響が絞られます。
パンフレットによると、収入金額が1,000万円を超えていても、「業務的規模」の方は従来どおり最大10万円の控除を受けられます。改正の影響を受けるのは「事業的規模」の方のみです。
事業的規模かどうかは、一般に「5棟10室基準」(貸家なら5棟以上、貸室なら10室以上)で判定されることが多いのですが、それだけで機械的に決まるものではなく、実質的な判断が必要です。
なお、業務的規模の方は、仮に複式簿記に移行しても控除額は最大10万円のままで、65万円控除にはなりません。この点は従来の扱いと変わりません。
それでも該当してしまった方がすべきこと
ここまで読んで「自分が該当しそうだ」と感じた方は、対応を検討する必要があります。
現実的な選択肢は、簡易簿記から複式簿記に切り替えて、e-Taxで申告することです。これにより、控除がゼロになるどころか、逆に65万円の控除が受けられます。改正をきっかけに控除額がむしろ増える、ということも十分あり得ます。
複式簿記と聞くと身構える方もいらっしゃいますが、クラウド会計ソフトを使えば仕訳の大部分は自動化できます。銀行口座やクレジットカードと連携させれば、日々の取引が自動で取り込まれ、勘定科目の推測まで行ってくれます。
国税庁のパンフレットでも、会計ソフトの活用が推奨されています。あわせて「デジタル化・AI導入補助金」に触れられており、小規模事業者の場合は導入費用の最大80%が補助される制度があるとされています。ただし補助金は年度ごとに要件や公募期間が変わるため、活用を検討される場合は最新情報の確認が必要です。
判定は「2年前の収入」なので確認を
令和9年分は、見かけ上はまだ先に感じますが、判定に使うのは「2年前の収入金額」です。令和9年分であれば令和7年分の収入で判定されます。令和7年分はすでに終わっているため、対象になるかどうかはもう確定しています。
簡易簿記で10万円控除を適用している方は、ご自身の令和7年分の収入金額を確認してみてください。1,000万円以下であれば、今回の改正で慌てる必要はありません。

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