先日、SNSでこんな趣旨の投稿を見かけました。「年収1,000万円を超えると配偶者控除は使えなくなる。ということは、103万円の壁だ130万円の壁だと熱心に語っている人の配偶者は、みんな年収1,000万円以下ということになる」。
皮肉としてよくできているなと思いながら眺めていたのですが、読み終わってから一つ引っかかりました。配偶者控除の1,000万円という基準は、そもそも「収入」ではなく「所得」だったはずです。
自分の中では当然の前提として持っていた知識なのですが、いざ言葉にしてみると自信が揺らぎました。ちょうど令和8年分の役員報酬を決める話が動いていた時期でもあり、確認し直してみました。
条文が見ているのは「合計所得金額」
所得税法83条は、控除を受ける本人の合計所得金額が1,000万円を超える年について、配偶者控除の適用を認めていません。「給与収入1,000万円」ではありません。
しかも、この1,000万円のところだけが崖になっているわけでもありません。控除額は合計所得金額900万円までが38万円、950万円までが26万円、1,000万円までが13万円と段階的に減っていき、1,000万円を超えたところで消えます。ちょうど1,000万円ならまだ13万円が残り、1円超えるとゼロです。
なお、配偶者特別控除も同じ制限がかかります。
給与1本なら、境界は年収1,195万円
では、収入ベースでいくらから使えなくなるのか。給与だけで生活している方であれば、合計所得金額はそのまま給与所得の金額になりますので、逆算は単純です。
給与所得控除は、給与収入が850万円を超えたところで195万円の頭打ちになります。令和8年分でも、この上限は変わっていません。改正が入ったのは低い収入帯のほうです。
したがって、給与収入1,195万円から給与所得控除195万円を引くと、合計所得金額はちょうど1,000万円。ここまではセーフで、1,195万円を1円でも超えるとアウト、という整理になります。賞与を出さない前提なら、月額でおよそ99万5,800円あたりが分岐点です。
先ほどの3段階も同じように換算できます。給与収入1,095万円、1,145万円、1,195万円。国税庁が出している源泉所得税の改正のあらましにも、この換算額がそのまま載っています。
子どもがいる代表者は、境界が1,210万円に動きます
給与収入が850万円を超える方で、23歳未満の扶養親族がいる場合などは、所得金額調整控除としてさらに最大15万円が給与所得から差し引かれます。
つまり、給与収入1,210万円から195万円と15万円を引いて、合計所得金額1,000万円。小さいお子さんがいる代表取締役なら、境界は1,195万円ではなく1,210万円ということになります。
配偶者控除を検討する方と子育て世代は重なりやすいので、報酬設定の場面では一度確認しておく価値があります。
「給与1本」のつもりが1本でなくなる年
もう一つ、役員特有の落とし穴があります。合計所得金額は、給与だけを見るものではないという点です。
役員退職金や申告することを選んだ上場株式の配当や譲渡益は、分離課税であっても合計所得金額には含まれます。通常の年なら余裕で1,000万円を下回る方でも、退職金を出した年や株式を売った年だけ、配偶者控除が適用できないことがあります。
しかもこの手のずれは、年末調整や確定申告の段階まで表に出てきません。報酬額を決めた時点では気づけないところが、いちばん厄介だと感じています。
今回については、勘違いしないまま令和8年分の役員報酬を設定できたクライアントもあり、正直なところ少しほっとしました。ただ、ほっとしたということは、危なかったということでもあります。次の報酬改定の場面では、給与以外の所得が乗る予定がないかまで含めて、先に一言確認しておこうと思います。

