令和8年度の税制改正で、青色申告特別控除の上限が65万円から75万円に引き上げられました。
ただ、要件を読んでいくと、取れる人はかなり限られそうです。税理士が年に1回、1年分の帳簿をまとめて入力しているケースは、特に厳しいと考えています。
75万円控除は令和9年分から
最初に時期を確認しておきます。改正後の控除が適用されるのは、令和9年分以後の所得税です。令和8年分(令和9年春に申告するもの)は、これまでどおり最大65万円です。
(国税庁パンフレット)優良な電⼦帳簿の保存⼜はデジタルシームレス保存により75 万円の⻘⾊申告特別控除を適⽤しましょう︕
75万円を受けるには、複式簿記で記帳し、e-Taxで申告したうえで、仕訳帳と総勘定元帳を電子帳簿保存法に沿って電子で保存することが求められます。
電子保存の方法は大きく2つです。1つは「優良な電子帳簿」の要件を満たす方法です。優良な電子帳簿とは、訂正や削除の履歴が残る、帳簿同士のつながりを確認できる、日付や金額で検索できる、といった条件を備えた電子帳簿のことです。もう1つは、請求書などの電子データを会計ソフトに自動で取り込んで保存する方法で、一般に「デジタルシームレス」と呼ばれています。
見落としやすいのは、帳簿は1月1日から順に記録していく前提だという点です。令和9年分で75万円を受けるなら、令和9年1月1日の時点で体制ができている必要があります。準備に使える時間は、実質的に年内しかありません。
国税庁Q&Aの問20が示していること
国税庁は令和8年7月に、電子帳簿保存法の一問一答を更新しています。【電子帳簿・電子書類関係】の問20に、記帳代行に関する考え方が載っています。
電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】
会計事務所や記帳代行業者に入力を任せること自体は認められます。しかし、年の途中では記帳せず、年が終わってからまとめて記帳する形で任せることは認められないとされています。
理由は、帳簿は年の初めに備え付け、取引を順に記録していくものだからというものです。年の途中でも、事業者の手元で帳簿を画面に出せる状態にしておく必要があります。1年分を一括で処理する形では、年の途中に帳簿が存在しないことになります。
あわせて問42の注書きでは、年の途中はメモなどで済ませ、年が終わってから優良な電子帳簿を作っても、年初から要件を満たしていたことにはならないとされています。
確定申告の時期に1年分の資料を受け取り、税理士がまとめて入力する。このやり方では、75万円の要件を満たさないと考えるのが自然です。
なお、問20は「書面であるか電磁的記録であるかにかかわらず」と書いています。75万円に限った話ではなく、帳簿の付け方そのものについての考え方として読むべきだと考えています。
記帳代行でも道がないわけではない
では、記帳代行を使う事業者は75万円をあきらめるしかないのか。Q&Aを読む限り、そうとも言い切れません。
問20は委託そのものを否定していません。また問29では、外部委託などの事情を踏まえ、最長2か月までの業務サイクルであれば、入力までの「通常の期間」として扱うとしています。
ここから考えると、毎月か2か月に1回、資料を受け取って入力し、その都度データを事業者に戻す。こうした運用であれば、記帳代行でも要件を満たす余地はありそうです。ただし、これは問29の目安を当てはめた私の読み方です。75万円控除について個別に示された取扱いではありません。
記帳の関わり方の見直しがハードルか
そう考えると、ハードルの中心はソフトの機能ではないのかもしれません。優良な電子帳簿の機能を備えた会計ソフトは、市販品にも一般に用意されています。設定を確認すれば、機能面はある程度クリアできます。
難しいのは運用です。事業者が毎月資料を整理して渡す。税理士がそれを期限内に入力する。訂正のルールを決めて守る。年1回の付き合いだった顧客にとっては、関わり方そのものを変えることになります。税理士の側も、年1回の作業が年6回、12回に分かれます。報酬の設計も見直しが必要になるはずです。
控除が10万円増えても、税金が減るのは所得税と住民税の税率を掛けた分です。多くの場合、数万円の差にとどまります。年1回まとめて入力している顧客に、この差のために毎月の手間を勧めるべきか。判断に迷うところではあると思います。
デジタルシームレスは抜け道ではない
もう1つのルートであるデジタルシームレスはどうでしょうか。請求書などの電子データが会計ソフトに自動で連携されるので、日々の記録は自然と積み上がります。
ただ、取引先から電子で請求書が届く、対応したソフトを使う、といった前提があります。紙のレシートや手書きの領収書が多い事業者には、そもそも向きません。年の途中に帳簿が存在している必要があるという問20の考え方も、このルートで変わるわけではないはずです。
どちらのルートでも、年の途中から記録が積み上がっていることが前提になります。75万円控除は、申告のやり方ではなく、1年間の記帳のやり方に対する控除だと考えています。
