「帳簿があれば事業所得」は半分だけ正しい

所得税

給与のほかに、講演や執筆で収入を得ている方は少なくありません。私も国税職員だった頃、『法人税基本通達逐条解説』の十訂版から十一訂版にかけて、一部の執筆を担当していました。その原稿料は、雑所得として申告していました。

こうした給与以外の収入が、事業所得になるのか、雑所得になるのか。給与と別に収入がある人にとって、よくある論点です。令和4年分から、この判定について所得税基本通達35-2が改正されています。改めて読み直すと、「帳簿があれば事業所得」という理解は、半分だけ正しいように思いました。

300万円の線引きは撤回された

令和4年8月、国税庁は35-2の改正案を公表しました。副業の収入が300万円以下なら、原則として雑所得とする内容です。

この案には多くの反対意見が寄せられました。同年10月に公表された改正後の通達では、300万円の線引きは外されています。代わりに、帳簿書類を保存しているかどうかが判断の軸になりました。

通達の本文が言っていること

判定の大枠は、改正の前後で変わっていません。その活動が、社会通念上、事業と呼べる程度のものかどうかで判断します。

そのうえで本文は、取引を記録した帳簿書類の保存がなければ、原則として雑所得になると定めています。例外は、収入が300万円を超え、かつ事業と認められる事実がある場合です。

裏を返すと、帳簿があれば、おおむね事業所得として扱われることになります。ただ、帳簿は事業所得の前提に近いものです。帳簿があることだけで、事業所得が決まるわけではありません。

帳簿があっても事業とみられない場合

通達発遣と同日に、国税庁は「雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説」を公表しています。基準の細かい中身は、通達の本文ではなく、こちらに書かれています。そこでは、帳簿があっても個別に判断する場合として、二つの例が示されています。

一つは、収入が僅少な場合です。例年(おおむね3年程度)、収入が300万円以下で、主たる収入に対する割合が10%未満であれば、これに当たると考えられています。

もう一つは、営利性が認められない場合です。例年赤字で、かつ赤字を解消するための取組をしていない場合がこれに当たるとされています。

私自身、この改正は帳簿の話として受け止めていました。改めて通達と解説を並べて読むと、問われるのはむしろ帳簿の先なのだと感じています。

雑所得になると何が変わるか

一番大きいのは、赤字を給与と差し引けなくなることです。他の所得と差し引く損益通算ができるのは、不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の赤字に限られます(所得税法69条)。雑所得の赤字は、その年の雑所得の中で使い切れなければ、それで終わりです。

また、青色申告は事業所得や不動産所得などを対象とした制度です。雑所得には、青色申告特別控除もありません。

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