2026年10月17日、与党内で競馬など公営ギャンブルの払戻金を非課税にする案が浮上していると、産経新聞が報じています。宝くじは非課税です。一方、馬券は主催者の取り分が引かれたうえで課税もされます。それが「二重に取られる」という不満につながっているという内容です。
報道の時点では議論が出てきた段階であり、制度が変わると決まったわけではありませんが、いまの課税の仕組みを最高裁判決を手がかりに整理したいと思います。
原則は「一時所得」で、外れ馬券は引けない
競馬の払戻金は、原則として「一時所得」に当たります。一時所得とは、懸賞の賞金のように、仕事や継続的な取引とは関係なく、たまたま得た所得のことです(所得税法第34条)。所得税基本通達34-1も馬券の払戻金を一時所得の例に挙げています。
計算は、その年の払戻金の合計から当たり馬券の購入費を引き、さらに最高50万円の特別控除を引きます。残った金額の半分が、ほかの所得と合算されて課税されます。
問題になるのは外れ馬券です。一時所得で差し引けるのは、その収入を得るために「直接要した金額」に限られます。払戻金を得るのに直接かかったのは、当たり馬券の代金だけです。外れ馬券の代金は引けないというのが原則の考え方です。
するとこういうことが起こります。1年間で馬券を100万円分買い、そのうち1万円分の当たり馬券で80万円の払戻しを受けたとします。差し引きでは20万円の負けです。それでも計算上は、80万円から1万円と50万円を引いた29万円の半分、14万5千円が課税の対象になります。年間で負けていても税金がかかりうる。不満の根っこはここにあります。
最高裁が「雑所得」と認めた2つの事件
ただし、例外があります。最高裁は2つの事件で、払戻金を一時所得ではなく「雑所得」と判断しました。雑所得になると、外れ馬券の代金も必要経費として差し引けます。
1つ目は平成27年3月10日の判決です。馬券を自動で購入するソフトを使い、インターネットで長期間、大量に、網羅的に馬券を買い続けていた人の刑事事件でした。最高裁は、この一連の購入は一体の経済活動といえ、営利を目的とする継続的行為にあたるとして、雑所得と判断しました。
2つ目は平成29年12月15日の判決です。こちらはソフトを使っていません。ただ、予想の確度と配当率の組合せで購入パターンを決め、年間を通じてほぼ全レースで買うことを目標にしていました。最高裁はこれも雑所得と判断しています。
一方で、払戻金を一時所得と判断した裁判例もあります。東京高裁平成28年9月29日判決で、最高裁は平成29年12月20日に上告を棄却しました。多額の利益が出ていても、雑所得と認められるとは限りません。結論を分けたのは利益の大きさではなく、買い方の中身だと整理されることが多いです。
国税庁はこれらの判決を受けて、通達を2度改正しました。いまも原則は一時所得のままです。雑所得になるのは、判決で示されたような買い方で、多額の利益を恒常的に上げている場合に限られます。多くの競馬ファンにとっては、外れ馬券は引けないというのが現状です。
「二重に取られる」は本当か
馬券を買うと、売上のうち一定割合が主催者側に差し引かれます。払戻金はその残りから配られます。JRAの場合、この割合は券種によって20%から30%です。差し引かれた分の一部は国庫にも納められます。
これを税金と同じように見れば、「二重」と感じるのは自然です。ただ、法律上この控除分は税金ではありません。税の世界でいう二重課税は、一般に同じ所得に二度課税することを指します。その意味では、厳密に二重課税とは言いにくい面があります。
比べられることの多い宝くじは、当せん金付証票法で当選金が非課税とされています。ただし宝くじは、当選金の総額が発売額の5割までと法律で決められています。購入時に差し引かれる割合は、競馬より大きいです。
把握のしにくさという問題
執行面の難しさも指摘されています。ネット投票なら購入と払戻しの記録が残ります。一方で、窓口で現金で買った馬券は、税務署が把握するのが難しい。同じ当たり方でも、買い方によって申告の実態に差が出やすいという指摘があります。
