私たちが納めた年金保険料の一部は、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が運用しています。その2025年度の成績が出ました。収益額は41兆3,995億円、収益率は16.47%。6年連続の黒字で、2023年度に次ぐ過去2番目の高水準です。年度末の運用資産は293兆円にのぼります。国内外の株高と円安が主な要因とされています。
通算で見ると、2001年度以降の累積収益は約197兆円、年率平均はプラス4.67%です。ITバブル崩壊もリーマンショックもコロナショックも経て、なお通算でプラスを保っています。「年金は破綻する」という単純な話ではない、とは言えると思います。
中身は株と債券を4つに分けているだけ
何に投資しているのか。国内株式・外国株式・国内債券・外国債券に、各25%です。2025年度から始まった新しい運用計画でも、この比率は維持されました。特別な手法ではありません。幅広く分けて長く持ち、急落しても基本的に売らずに構成を保つ。昨春の株価下落局面で売却に動かなかった結果が、この黒字につながっています。
それでも払う保険料は下がらない
41兆円の黒字が出ても、現役世代の保険料は軽くなりません。厚生年金の保険料率は、2017年9月を最後に引き上げが終わり、18.3%で固定されています。国民年金の保険料も定額です。2004年改正で入った「保険料水準固定方式」により、保険料の上限を法律で固定し、その財源の範囲で給付水準を調整する建付けに変わりました。
給付側の調整弁がマクロ経済スライドです。現役世代の減少や寿命の伸びに合わせ、給付水準を自動的に抑えます。現役の手取りに対する年金額の割合(所得代替率)は、2024年度の61.2%から、将来は50%台前半まで下がる見込みです。運用益は「保険料を下げるお金」でも「給付を増やすお金」でもありません。ここは分けて理解しておくべきです。
保険料の半分は会社が払っている
厚生年金の保険料は会社と本人が折半します。18.3%のうち本人が9.15%、会社が9.15%です。給与明細に載るのは本人分だけなので、実際は倍かかっている点は雇用者サイドとしては見落とされがちです。
会社にとってこの負担は「法定福利費」という人件費です。標準報酬月額30万円の従業員なら、厚生年金だけで会社は毎月約2.7万円、年間約33万円を別途負います。健康保険まで含めればさらに増えます。「半分は会社が払ってくれる」は、裏返せば「会社はそれだけのコストを負う」ということでもあります。
しかもこの負担は、一部は増える方向です。2027年9月から、保険料計算のもとになる標準報酬月額の上限が、65万円から段階的に引き上げられます。給与水準の高い従業員を抱える会社ほど、本人負担も会社負担も増えます。運用が黒字でも、負担は軽くなりません。
積立金が支える年金は、全体の1割ほど
なぜ運用と保険料が切り離されているのか。公的年金が「積み立て」ではなく「仕送り」だからです。今の現役世代の保険料が、そのまま今の受給者に回ります。財源は、保険料・国庫負担(税金)・積立金の三つ。GPIFが運用するのは三つ目だけで、100年でならすと約9割は保険料と国庫負担、積立金は1割ほどです。
だから年金額を決める主役は現役世代の保険料です。支え手が減れば、給付水準は多くの場合じわじわ調整されます。運用が絶好調でも、明日の年金が増えるわけではありません。ただし積立金が293兆円まで育った意味は小さくなく、将来世代の目減りをやわらげるクッションにはなります。
同じニュースでも、立場によって見えるものは変わります。運用が堅調でも、老後の設計は保険料と給付の仕組みを踏まえて自分で組み立てる。結局はそこに行き着きます。
年金制度の全体像で一番参考になった書籍は、大江英樹・大江加代『知らないと損する年金の真実 改訂版 2026年新制度対応』(ワニブックスPLUS新書)です。賦課方式やマクロ経済スライド、GPIFなど、この記事で触れた論点が新書1冊に簡潔に整理されています。
