売上が1,000万円を超えてくると、法人にしたほうがよいかという相談をよく観測します。
そのとき、多くの場合まず話題になるのが消費税です。
個人から法人に切り替えることで、消費税を納めなくてよい期間を長く取れることがあるからです。
ただ、この話には条件がいくつも付きます。
また、法人化そのものが向いているかどうかは、消費税とは別に考える必要があります。
免税の期間を「つなぐ」という考え方
消費税は、売上があれば誰でも納めるわけではありません。
原則として、2年前の課税売上高が1,000万円以下なら、納めなくてよいことになっています。
この「2年前」を基準期間と呼びます。
たとえば、令和7年の売上が1,000万円を超えた個人事業者の場合です。
令和7年が基準期間になる令和9年は、消費税を納める側、つまり課税事業者になります。
ここで、令和9年1月に法人を設立し、事業を法人に移したとします。
設立したばかりの法人には「2年前」がありません。
そのため、資本金が1,000万円未満であれば、一般に設立から2期は免税になりえます。
個人で納めるはずだった時期を、法人の免税期間で置き換えるかたちです。
なお、個人の令和8年分が免税かどうかは、令和6年の売上や、令和7年前半の状況で別途判定されます。
2期目に効いてくる「特定期間」
ただし、2期目まで自動的に免税になるとは限りません。
1期目の最初の6か月を特定期間といい、ここでも判定が入ります。
特定期間の売上と、その間に支払った給与(役員報酬を含みます)が、どちらも1,000万円を超えると、2期目から課税事業者になります。
逆にいえば、どちらか一方が1,000万円以下なら、免税のままでいられます。
売上が大きくても、最初の半年の給与の合計が1,000万円以下なら、多くの場合はこの判定にかかりません。
なお、事前確定届出給与に関する届出書を提出していた場合においては注意が必要です。

また、1期目を7か月以下にすると、特定期間による判定自体が行われない仕組みもあります。
設立日と決算月の組み合わせで結果が変わるので、設立前に決めておく必要があります。
インボイス登録をしているなら、前提が変わる
ここまでの話は、免税でいられることが前提です。
インボイス発行事業者として登録すると、売上の大小にかかわらず課税事業者になります。
取引先の多くが事業者で、インボイスを求められる業種では、法人でも登録せざるをえないことが多いでしょう。
そうなると、設立直後から課税事業者になり、免税期間をつなぐ効果はありません。
加えて、登録した小規模事業者向けの軽減措置(いわゆる2割特例)は、令和8年9月30日を含む課税期間で終わります。
令和9年・10年分の後継措置(3割特例)は個人事業者だけが対象で、法人は使えません。
法人にするかどうかは、別の物差しで考える
消費税の話は分かりやすく、数字にもしやすいので、どうしても入口になりがちです。
ただ、免税期間は長くても2年分の話です。
法人はその先も続きます。
まず業態です。
取引先によっては、法人でないと契約しないというケースがあります。
こうした事情があれば、税金の損得とは別に、法人化を検討する理由になります。
次に所得の水準です。
「課税所得がいくらを超えたら法人が有利」という目安は、よく語られます。
ただ、実際には一概に言えません。
役員報酬をいくらにするか、社会保険料の負担がどう変わるか、利益を会社に残すのか個人で使うのか。
赤字でもかかる法人住民税の均等割や、決算・申告の手間と費用もあります。
これらの組み合わせで結論が変わるため、個別に試算するのが基本です。
源泉徴収がなくなると、お金の流れが変わる
個人が受け取る原稿料やデザイン料、士業の報酬などは、支払う側が所得税を差し引いてから支払います。
法人が受け取る場合、多くの報酬はこの差し引きの対象外です
そのため、法人化すると入金額が増え、資金繰りが楽になることがあります。
ただし、税金が減るわけではありません。
個人で差し引かれていた分は、確定申告で精算される前払いの税金です。
法人になれば、法人税などを決算後にまとめて納めることになります。
変わるのは負担の大きさではなく、払うタイミングです。
手元に残るお金の一部は、納付に備えて分けておく必要があります。
