個人事業主の方から、ときどきこんな相談を受けます。
「家族に手伝ってもらっている。給料を払ったほうがいいのか、扶養に入れておいたほうがいいのか」。
先に言うと、両方は選べません。どちらが有利かは、本人の所得と、家族にいくら払うかで変わります。
ここでは、配偶者を例にその比較を整理します。
給料を払った時点で、配偶者控除は使えなくなる
青色申告の個人事業主が家族に払う給料を「青色事業専従者給与」といいます。以下、専従者給与と書きます。
専従者給与を受け取った配偶者は、配偶者控除や配偶者特別控除の対象から外れます。
金額の大小は関係ありません。年に数万円でも、専従者給与として払えば配偶者控除は受けられません。
「少しだけ払って、扶養にも入れておく」という組み合わせはできないということです。
本人の側で比べる物差しは「38万円」
配偶者控除は、本人の所得から一定額を差し引く仕組みです。所得税で38万円、住民税で33万円です。
これは本人の合計所得金額が900万円以下の場合の金額です。それを超えると段階的に減り、1,000万円を超えるとゼロになります。
一方、専従者給与は払った額がそのまま経費になります。100万円払えば、本人の所得が100万円下がります。
本人の側だけを見れば、比べるのは「38万円」と「払う給料の額」です。
例えば、本人の所得税と住民税を合わせた税率が30%で、配偶者に年100万円払うとします。本人の税金はおおよそ30万円下がります。配偶者控除なら10万円余りですから、差は20万円近くになります。
逆に、払える給料が年に30万円程度なら、税金の差はほとんどないか、配偶者控除のほうが有利になることもあります。
本人の所得が1,000万円を超えている場合は、そもそも配偶者控除が受けられません。専従者給与を検討する余地は大きくなります。
受け取る側の負担も見る
専従者給与は、配偶者にとっては給与収入です。
給与所得控除と基礎控除が使えるため、ある程度の金額までは所得税がかかりません。先ほどの年100万円であれば、一般に所得税も住民税もかからない水準です。
ただ、住民税は所得税より低い水準からかかり始めます。給料を増やしていけば、配偶者自身の税金や国民健康保険料も発生します。
具体的な線引きは、ここ数年の税制改正で毎年のように動いています。住民税が非課税になる基準も自治体で違います。金額を決めるときは、その年の基準で確かめる必要があります。
考え方としては、本人の税率と配偶者の税率の差を見ることになります。本人の税率が高いほど、所得の一部を配偶者に移すことで家族全体の負担は下がりやすくなります。本人の所得がそれほど高くなければ、全体ではあまり変わらないこともあります。
多く払うほど得というわけではありません。
見落としやすい国民健康保険
税金だけで比べると、見えてこない部分もあるかと思います。
国民健康保険料のうち所得に応じた部分は、一般に、所得から一律の金額を引いた額をもとに計算されます。配偶者控除はここでは差し引かれません。
つまり、配偶者控除を取っても、本人の保険料は下がりません。
専従者給与は経費なので、本人の所得そのものが下がり、保険料も下がります。個人事業税がかかっている方は、こちらも同じ方向に動きます。
ただし、保険料の料率は自治体で異なります。業種ごとの国民健康保険組合では、所得に関係なく保険料が決まるところもあります。加入先によって、この差は大きくも小さくもなります。
もう一つ、会社員の家庭と違う点があります。本人が国民年金に加入している場合、配偶者はもともと社会保険の扶養に入っていません。配偶者も自分で国民年金に加入する立場です。会社員の家庭でよく聞く「130万円の壁」は、多くの場合、同じ形では当てはまりません。
給料を払うなら形を整える
専従者給与を経費にするには、事前に税務署へ届出書を出しておく必要があります。原則として、その年の3月15日までです。年の途中で開業した場合などは別の期限があります。
配偶者が年を通じて6か月を超えて、事業に専ら従事していることも条件です。ほかに常勤の仕事を持っている場合は、一般に対象になりません。
金額は、仕事の内容に見合っていることが前提です。高すぎる部分は経費として認められません。実際に払っていることも必要なので、家族の口座に振り込むなど、後から確認できる形にしておくのが無難です。
私見ですが、相談を受けていて一番迷うのは、この「どのくらい手伝っているか」の見極めです。税額を並べると専従者給与が有利に見えても、実態が伴わなければ選べません。計算より先に、仕事の中身を伺うようにしています。
手伝いが月に数日程度であれば、配偶者控除を選ぶほうが自然な場合も多いと思います。
