以前、桃鉄で考える簿記――物件を買っても総資産が減らない理由という記事を書きました。今回も桃鉄を使います。テーマは戦略と戦術です。

元にしたのは、森岡毅さんの『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』です。USJの立て直しに関わったマーケターが書いた、マーケティングの入門書です。この本で読んだ戦略と戦術の考え方を、自分なりに桃鉄に置き換えてみます。
戦略は行き先、戦術は進み方
桃鉄では、毎回「目的地」が示されます。いちばん先に着いたプレイヤーには援助金が入ります。
ここでは、どの方向へ向かうかを戦略と呼びます。どうやって進むかを戦術と呼びます。
戦術の代表は進行系カードです。急行、特急、新幹線、のぞみといったカードで、使うとサイコロを複数個振れます。1個で振るより、一度に遠くまで進めます。
今回の目的地は札幌だとします。
4つの組み合わせを並べてみる
戦略と戦術、それぞれに正しい・間違っているがあるので、組み合わせは4つです。
Aは、進行系カードを使って札幌へ向かう場合です。戦略も戦術も正しい。これが最善です。
Bは、普通にサイコロを振って札幌へ向かう場合です。歩みは遅いものの、方向は合っています。次善の策です。
Cは、進行系カードを使って、札幌と真逆の鹿児島へ向かう場合です。戦略は間違い、戦術は正しい。
Dは、普通にサイコロを振って鹿児島へ向かう場合です。戦略も戦術も間違っています。
直感的には、両方間違っているDが最悪に見えます。しかし、いちばんまずいのはCです。
なぜ「速く逆方向へ進む」がいちばんまずいのか
理由の1つ目は距離です。進行系カードを使うと、間違った方向へ遠くまで進みます。サイコロ1個なら数マスで済んだはずの遠回りです。札幌から離れた分は、そのまま戻る手間になります。
2つ目は、カードの消費です。多くのカードは、使えばなくなります。札幌へ向かうときに使えたはずのカードを、逆方向に使ってしまったことになります。
3つ目は、気づきにくさです。戦術がうまくいくと、進んでいる手応えがあります。マス目をどんどん進む画面を見ていると、方向がおかしいことに気づきにくくなります。サイコロ1個でのろのろ進んでいるほうが、かえって立ち止まる余地があります。
戦術の上手さは、向きを選びません。正しい方向に使えば大きな前進になり、間違った方向に使えば大きな後退になります。
税理士の仕事に置き換えると
税理士の仕事でいえば、決算前の節税相談が分かりやすい例かと思いました。
社長から「今期の税金を少しでも減らしたい」と相談を受けたとします。ここで考えたいのは行き先です。税金を減らすこと自体が目的なのか。それとも、会社にお金を残して事業を続けることが目的なのか。多くの場合、本当の行き先は後者です。
Aは、会社にお金を残すことを行き先にして、支出の時期を整えたり、納税資金を前もって準備したりする状態です。Bは、同じ行き先に置きつつ、特に工夫はせず、利益を出して税金を払う状態です。
Cにあたるのは、税金を減らすこと自体を行き先にして、制度を正確に使いこなす状態です。たとえば、決算直前に、今すぐは必要でない備品や設備をまとめて買う。要件を満たせば経費にでき、法人税は確かに減ります。
ただ、経費を100使っても、減る税金は100より小さいのが普通です。税金が減った分を差し引いても、会社のお金は減ります。前回の記事でいえば、お金が物に替わっただけです。しかし、その物が今の会社に必要でなければ、使い道のない物にお金を移したことになります。
利益も小さく見えるので、金融機関からお金を借りるときに不利になることもあります。しかも、手続はどれも正しく済んでいるので、疑問を持つきっかけがありません。翌年も同じことが繰り返されやすくなります。
Dにあたるのは、同じく税金を減らしたいと思いながら、決算が締まってから相談に来るような場合です。打てる手はほとんどなく、税金を納めて終わります。不本意かもしれませんが、税金を払った残りのお金は会社に残ります。結果として、Cより傷が浅いことは多いと考えます。
カードを持っているのは税理士の側
この構図は、社長の側だけの話ではありません。税理士は、制度の知識という進行系カードを多く持っている立場です。「税金を減らしたい」と言われて、行き先を確かめずに手持ちのカードを切れば、Cを一緒に作ることになります。
行き先を聞くより先に、進み方を考え始めてしまう。この順番を入れ替えるのは、思っていたより難しいと感じています。
桃鉄では、目的地は画面に表示されます。現実の仕事では、誰も行き先を表示してくれません。カードを切る前に「このお金を、この先どうしたいですか」と聞くのは、そのためだと思っています。

