税理士法人は、税理士法第48条の2以下に根拠を持つ法人です。会社法上の合名会社をひな形としており、社員(出資者であり業務執行者でもある人)は税理士に限られます。現行法では社員税理士は2人以上必要とされており、ここが個人事務所からの法人化を考える際の最初の関門になります。
社員税理士は無限連帯責任を負います。法人の財産で債務をまかなえない場合には、個人の財産で連帯して弁済する立場に置かれます。株式会社のような有限責任ではない、いわゆる人的会社としての性格を持っているという点を最初に押さえておく必要があります。
法人化の主なハードル
最大のハードルは、社員税理士を2名確保しなければならないことです。単独で事務所を構えている場合、もう1名の税理士を共同経営者として迎えるところから始まります。業務分担、報酬の分配、意思決定の仕組み、離脱時の処理まで、契約と定款で詰めなければならない事項はかなりの量になります。家族で2人とも税理士というケースを除けば、ここが実務的にも心理的にも重い障壁です。
次に重いのが無限連帯責任の問題です。社員税理士は、自分が担当した案件でなくても、もう1名の社員が起こした損害賠償について連帯責任を負います。退社しても、登記から2年間は責任が残るとされています。相手の力量や倫理観、健康状態まで含めた長期の信頼関係が前提となる関係性です。
そして、社員税理士は個人として税理士業務を受任することができなくなります。事務所も自分名義では構えられません(税理士法第40条第4項、第48条の14)。既存の顧問契約をすべて法人に巻き直す作業や、屋号・名刺・ホームページの差し替え、税務署や都税事務所への異動届、e-Tax・eLTAXの利用者識別番号の整理など、ひとり事務所であればあるほど整理対象が多くなります。
ランニングコストの増加も見落とせません。法人住民税の均等割が必ずかかります(東京都の場合は最低でも年7万円)。法人税の申告も別途必要です。社会保険は強制加入になります。役員報酬は事業年度開始から3か月以内に決めた金額を1年間維持する必要があり(定期同額給与)、所得のコントロールの柔軟性は個人事業より下がります。
法人化のメリット
一方で、法人化のメリットも明確にあります。
第一に、信用力の差です。「税理士法人」の看板は、特に中堅以上の法人顧客や金融機関対応で効きます。提案依頼の段階で法人格を要件とする発注者もあり、入札や大型案件、上場準備支援などでは法人化が事実上の前提になることがあります。
第二に、支店(従たる事務所)の設置が可能になります。個人税理士はいわゆる二ヶ所事務所が禁止されていますが、税理士法人は従たる事務所を設置できます。各従たる事務所には常駐の社員税理士を1名以上置く必要はありますが、地理的展開の道が開けるという点では大きな違いです。
第三に、業務継続性です。社員税理士の1名が亡くなった場合や長期療養になった場合でも、もう1名の社員が業務を継続できます。顧問先への責任の引き継ぎが、個人事務所と比べて格段にスムーズです。事業承継やM&Aの選択肢も広がります。
第四に、税負担の構造的なメリットです。役員報酬による所得分散、自身への退職金の準備、社宅規程や出張日当規程の活用など、法人ならではの仕組みが使えます。所得が一定水準を継続して見込めるなら、税負担の総額で法人有利になる場面が出てきます。
第五に、採用面の効果です。雇用される側からみると、個人事務所より「税理士法人」のほうが安心感があり、求人の応募率にも差が出やすい傾向があると言われます。
どこで判断するか
法人化の判断は、「税負担の有利不利」だけで決められるものではないと感じています。税負担のメリットだけで言えば、ある程度の所得水準が継続的に見込めるかどうかが判定軸になります。ただ、実際の現場では、税負担より先に「業務上の必要性」のほうから法人化判断が動くケースのほうが多いように思います。法人格がないと受けにくい案件が増えてきた、採用を本格化させたい、支店展開を考えたい、といった話です。
逆に言えば、ひとり事務所のままで業務が回っていて、顧客層も法人格を求めてこないのであれば、ランニングコストや手続きの重さに見合うメリットが出てこない可能性は十分にあります。法人化は不可逆に近い意思決定なので、メリットを「いずれ出るかもしれない」で取りに行くと、目の前の手間とコストに押されることになります。
個人的に重いと感じるのは、やはり無限連帯責任の論点です。自分の判断や行動と切り離されたところで、もう1名の社員の動きに自分の財産が連動する。これを引き受けられる相手が身近にいるかどうかは、制度の優劣を超えた話だと思います。事務所の規模感や所得水準で機械的に判断できる類のテーマではない、というのが率直な感覚です。

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