西原理恵子さんの「脱税できるかな」を読みました。漫画「できるかな」シリーズの一編で、単行本『できるかなV3』(扶桑社、2003年12月)に収められています。現在はKindle Unlimitedでも読めます。
内容は、作者が経営する会社に税務署の調査が入る話です。会社は設立以来、ほとんど税金を納めていませんでした。領収書の金額を水増しし、実在しないアシスタントの人件費を経費に計上していたからです。
経費の水増しと架空人件費による、はっきりした租税回避です。漫画はそれをギャグとして描いています。
1億円が1500万円になるまで
調査の結果、架空の経費は否認されます。さらに、事実の隠蔽または仮装により課される重加算税も加わり、過去5年分でおよそ1億円の追徴を告げられます。
ここから作者の抵抗が始まります。裁判で徹底的に争うと宣言し、署側と膠着状態になります。すると署側が折れ、追徴額は5000万円に下がります。最終的には、本体部分で1500万円ほど、源泉徴収分を加えても2300万円ほどで決着した、という筋です。
作者はこれを「20ページの漫画に2300万円」と計算し、1ページ115万円のギャグだと嘆きます。延滞税についても、作中の税理士が「本税を納めてしまえば、これ以上は増えない」と助言します。
「税金は交渉できる」の正体
ここで誤解されやすい点があります。「税金は交渉できる」という言い方です。
正確には、法律で決まる税額そのものを値切れるわけではありません。やり取りの余地があるのは、その手前の「事実認定」です。
たとえば、ある支出が本当に事業の経費なのか。隠蔽または仮装した事実があったと言えるのか。こうした判断には、白黒つけにくい部分が残ります。調査では、このグレーゾーンをめぐってやり取りが行われ、多くの場合、双方が納得できる落としどころで修正申告に至ります。
漫画のように8割が消えることが本当にあったのかは、わかりません。あくまでギャグ漫画として描かれたものです。ただ、事実認定に幅がある以上、結果として税額が動くこと自体はあり得ます。
今、同じことが起きにくい理由
問題は、こうしたやり取りが今後も成り立つのか、です。
国税の情報管理は大きく変わりました。全国の税務署をつなぐKSK(国税総合管理)システムは、1995年に試行が始まり、2001年に全国へ導入されました。納税者の過去の情報は、一元的に管理されています。作中で税理士が勧める「会社をつぶして移転すれば、所轄が変わって過去の情報は引き継がれない」という発想は、すでに通用しにくくなっています。
さらに2026年9月からは、後継のKSK2が稼働します。過去記事で魔法の杖信仰とdisってしまったものの、調査の前提となる情報量が、当時とは比べものになりません。

「脱税できるかな」が描いたのは、この情報管理が全国に行き渡る直前の時代でした。元職員の感覚として、同じことが交渉だけで通る場面は、もう想像しにくいと感じます。

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