以前、会社が社員の住まいを支える方法として、借上社宅・住宅手当・給与を下げて社宅に置き換える型の三つを比べた記事を書きました。

三つのうち、労務面のハードルが最も低く、所得税の負担も生じにくいのが借り上げ社宅です。給与の額面を触らないので、本人の同意も最低賃金の確認も要りません。今回は、実際に導入すると決めた後、何が起きるのかを順に整理します。
契約名義を法人にする
会社が貸主と賃貸借契約を結び、その部屋を社員に貸す。この形でなければ、社宅の貸与になりません。
社員名義で借りた部屋の家賃を会社が払う形では、扱いは家賃の肩代わりです。肩代わりした金額の全額が給与として課税されます。名義を後から変えるには貸主の同意が要り、応じてもらえないこともあります。
ですので、物件を決める前の確認が要ります。法人契約が可能か。会社が借りて社員に住まわせる形を認めてもらえるか。仲介の段階でこれを伝えておく必要があるかと思います。
家賃を低く抑えるなら、固定資産税評価額が要ります
課税されるかどうかは、実際の家賃では決まりません。建物と敷地の固定資産税の課税標準額などから計算した賃貸料相当額が基準です。役員でない社員であれば、その50パーセント以上を徴収していれば給与課税されません(所得税基本通達36-45、36-47)。
会社が払う家賃の半額を徴収する、という運用にするのであれば、この計算をしなくても基準を満たすことがほとんどです。手間をかけない選択も十分にあり得ます。
計算が必要になるのは、負担をもっと軽くしたい場合です。賃貸料相当額は市場の家賃よりかなり低くなることが多く、その水準まで徴収額を下げようとするなら、根拠となる数字を手元に持っていなければなりません。
借主である法人は、賃貸借契約書を示せば、借りている建物とその敷地について証明書の交付を請求できます(地方税法382条の3)。本来は貸主に確認する話ですが、管理会社が間に入っていて所有者まで話が通らないことは珍しくありません。自分で取りに行ける道がある、と知っておくと早いです。
一棟の建物を部屋ごとに分けて借りている場合は、建物全体の数字を床面積で按分します。数字は年度ごとに動きますが、改訂の幅が20パーセント以内であれば計算し直さなくてよいとされています(同通達36-46)。
社宅規程は会社or税理士どちらが作成するか
制度として運用する以上、社内のルールが要ります。入居できる人の範囲、対象とする物件の家賃の上限、本人から徴収する額の決め方、水道光熱費の扱い、退職や転居のときの明渡し。これらを書いたものが社宅規程です。
規程がないと直ちに課税されるという性質のものではありません。ただ、誰にいくら負担させるかが担当者ごとの判断で決まっている状態は、後から説明がつきません。特定の人だけを優遇していると見られれば、給与として扱われる余地も出てきます。
作成は会社でしていただいて構いません。ひな形は出回っていますし、実態に合わせて直せるのは社内の方です。一方で、徴収額をどう決めるかは税務の話です。弊事務所では、ご依頼があれば社宅規程を策定しています。
導入した後にも作業は続きます
契約と規程が整ったら、給与計算に反映します。社宅使用料を給与から控除する形にするのが一般的です。
社会保険は税と別の物差しを使います。都道府県ごとに定められた現物給与の価額を用い、本人負担額との差額を報酬に加えます。この算定方法は令和8年10月から変わります。前回の記事で触れたところです。
もう一つ、住宅の貸付けは消費税が非課税です。会社が支払う家賃も、社員から受け取る使用料も、原則として消費税はかかりません。会計処理の際に課税仕入れとして拾ってしまわないよう、確認しておくところです。
