関連者間取引の書類保存特例に係る指針が公表されました

法人税

以前、財務省や国税庁で働く人たちの一年は、7月1日から翌年6月30日までで区切られており、これを事務年度と呼ぶ旨の記事を書きました。

国税職員の「新年度」は4月ではない――事務年度という区切り
一般に、4月は新年度の始まりです。民間企業でも官公庁でも、人事異動や新入社員の受け入れはこの時期に行われます。ところが、国税職員の場合は少し事情が異なります。国税の世界には「事務年度」という独自の区切りがあり、7月1日から翌年6月30日まで…

例年、6月末までに、その年度の税制改正を反映させた法令解釈通達や事務運営指針が整えられます。新しく作られることもあれば、既存のものに改正が反映されることもあります。この記事を書いている今日は、ちょうど新事務年度の初日にあたります。

その一例として、令和8年度の税制改正で創設された「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」について、国税庁から運用の指針が公表されました。

「関連者間取引の書類保存の特例」とは

関連者間取引とは、支配関係にある会社どうしの取引です。企業グループの中でのやり取りと考えるとわかりやすいかもしれません。

会社は、取引に関して授受した書類を保存する義務があります。ただ、グループ内の取引では、外部との取引ほど詳しい資料を作らないことがあります。そうすると、後から取引の中身や対価の計算根拠がわからなくなることがあります。

そこで今回の特例は、こう定めました。関連者間取引について、授受した書類に必要な記載が足りないときは、足りない部分を明らかにする書類を別に用意し、それを保存しなければならない、というものです。この「足りない部分を明らかにする書類」を、指針では特定事項記載書類と呼んでいます。

この義務は、青色申告法人だけのものではありません。青色申告法人でない普通法人にも、同じように課されます。条文は二本に分かれていて、青色申告法人には法人税法施行規則59条の2が、それ以外の普通法人には67条の2が、それぞれ同じ内容が定められています。

書類の不存在 ≠ 損金算入否認、青色取消

ここが実務では大事なところです。

一つめ。この書類の保存は、その取引にかかった費用を損金の額に算入するための要件ではありません。書類が揃っていないからといって、それだけで費用の損金算入を直ちに否認する、という話ではないと整理されています。取引の内容や事実関係は、帳簿などをもとに確かめたうえで判断する、とされています。

二つめ。青色申告の承認の取消しについても、考え方が示されています。特定事項記載書類の保存は、青色申告に必要な帳簿書類のルールに含まれます。ですから、保存されていなければ取消しの理由になりえます。ただ指針は、保存の有無だけで一律に取消しの可否を判断するのは、青色申告制度の趣旨に照らして必ずしも適切とはいえない、としています。違反の程度その他の事情をふまえて判断する、という運用です。程度が軽ければ、取消しをせず改善指導にとどめることもできる、とされています。

書類の保存が無かった場合の帰結は、青色申告かどうかで分かれます。青色申告法人では、いま述べたとおり取消しの検討対象になります。青色申告をしていない普通法人には、取消しという問題はそもそも生じません。ただし、書類の状況から取引の実態がつかめず、税額を実際の数字で計算することが難しい場合には、推計課税を検討することがあるとされています。

青色申告の取消しの指針も、あわせて改正されました

この特例ができたことで、別の事務運営指針にも波及がありました。「法人の青色申告の承認の取消しについて」という指針の一部改正です。

新旧対照表を見ると、前文になお書きが一つ足されています。関連者間取引の書類の取得や保存の義務がどこまで果たされているかを理由に青色申告の取消しの可否を判断するときは、特例の規定の趣旨と、今回の関連者間取引指針の内容をふまえて取り扱う、というものです。取消しの理由を並べた本体部分は変わっていません。

電子帳簿保存法の運用と重なる(雑感)

この取扱いは、電子帳簿保存法の運用と同じ流れにあると感じています。電子帳簿保存法では、仮に電子保存すべきデータが紙で保存されていたとしても、そのことだけで直ちに青色申告が取り消されるわけではありません。取引の事実そのものは、ほかの書類からも確かめられるからです。

関連者間取引の書類の保存義務も、同じように考えてよいのではないかと思います。意図的に書類を作らない、残さないという場合は別として、記載が少し足りないという程度で、直ちに青色取消しにつながるわけではない。指針が「保存の有無だけで一律に判断しない」と述べているのは、そういう趣旨だと受け止めています。

ただ、これは現時点での私の見立てです。実際の運用がどう積み上がるかは、これから確かめていく必要があります。

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