GSS(ガバメントソリューションサービス)は、デジタル庁が提供する政府共通の業務実施環境です。各府省庁の職員が使うパソコン、ネットワーク、セキュリティ対策を統一して整備する仕組みで、国税庁だけのものではありません。国税庁は令和7年9月以降、これを順次導入しています。
GSSで提供され、税務の現場で使われる道具は4つです。インターネットメール、Web会議システム(Microsoft Teams)、オンラインストレージ(PrimeDrive)、アンケート作成ツール(Microsoft Forms)です。
これまで税務署と直接メールでやり取りできなかった背景には、国税の内部システムが外部ネットワークとつながらない構造だったことがあります。GSSは、その外側に安全な業務環境を別に用意したものと整理すると理解しやすいと思います。
調査が全部オンラインになるわけではありません
令和8年7月改訂の「税務行政におけるオンラインツールの利用に関するQ&A」は、この点をはっきり書いています。税務調査は事業活動の現況確認等が必要不可欠であるため、臨場による調査を原則とする。オンラインツールは、調査を進める過程での連絡や資料提出の手段として部分的に利用する。そう説明されています。

利用は税務署等の担当者と納税者・税理士の双方の合意がある場合に限られます。同意書に同意しても、個々のやり取りごとに断ることができます。事前通知も、現状どおり原則口頭です。
対面調査がオンライン面談に置き換わっていくという見方も一部にはあります。ただし、現時点の国税庁の説明はそこまで踏み込んでいません。GSSはあくまで器であり、調査の進め方そのものを変える宣言ではない、という読み方が現状には合っていると思います。
細かい取扱いについて
Q&Aを読むと、実務で気をつける点がいくつも出てきます。
申告書や届出書・申請書は、メールやPrimeDriveでは提出できません。書面かe-Taxが必要です。誤って送ってしまった場合は出し直しになります。
PrimeDriveに提出したデータは、担当者がダウンロードした後に削除されます。提出した側は事後に中身を確認できません。何をいつ渡したかの控えは、自分の側で残しておく必要があります。
Teamsの面談では、録音・録画、チャット、文字起こし、ホワイトボードの各機能の利用が禁止されています。画面共有は可能です。面談当日はカメラをオンにして本人確認を行い、事前に把握していない参加者や録音・撮影が確認された場合は利用を中断するとされています。
税務署等の職員が使うメールアドレスのドメインは「nta.go.jp」に限られます。詐欺メールとの区別は、ここで見ることになります。
録音を一律に禁じている点は、私は引っかかりました。記録が残ることは、調査を受ける側にとっても、調査する側にとっても、後の争いを減らす方向に働くはずだからです。デジタル化の利点を自ら手放しているように見えます。

器の話と中身の話は分けて考える
GSSは業務環境の刷新です。これとは別に、令和8年9月には次世代の国税総合管理システム(KSK2)が稼働するとされています。紙からデータへ、税目ごとに分かれたシステムの統合、という方向です。

さらにその先に、調査対象をどう選ぶかという論点があります。AIやアルゴリズムを使った選定の仕組みについては、透明性や外部からの検証が不十分だという指摘が研究者から出ています。選定の理由を知る手段や、それを争う手続が整っていない、という問題提起です。
オンラインで面談するかどうかは、納税者が選べます。しかし、調査対象に選ばれるかどうかは選べません。GSSの導入で目に見えて変わるのは前者ですが、納税者の立場から見て重いのは後者です。この二つは、同じ「税務行政のデジタル化」という言葉でくくられがちですが、別の話として追いかけたほうがよいと考えています。
